1: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:36:21 ID:Bz.Byn7M

国王「よくぞ来た、勇者よ!そなたも気づいているだろうが、近年復活した魔王の力が、より活性化し、最早見過ごせぬ状況にある」

国王「先日、大聖堂の街の司祭が神託を受けた…勇者よ、大聖堂の街へ行け。そこに集う仲間と共に、魔王を討ち取って参れ!」

勇者「は!必ずや、王の期待に答えてごらんにいれましょう!」

魔法使い「僕も!僕も頑張りまーす!!」

勇者「何故君がここに!?」


 ※僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」
 の補完&続編です。

魔法使い「魔王を倒す!」 勇者「心配だ…」【後編】

引用元: 魔法使い「魔王を倒す!」 勇者「心配だ…」

2: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:37:47 ID:Bz.Byn7M
魔法使い「僕も神託で、お姉ちゃ……とと、今は勇者様だね。勇者様の仲間に選ばれたんだよー!嬉しいなあ、勇者様と一緒に旅!僕、頑張る!」

勇者「いやいや。君の魔法の才能の凄さは、君を赤ん坊の頃から知っているから、よくわかるが…だからといって、こんな年端もいかない子供に何をさせる気ですか!神よ!」

魔法使い「子供扱いはやめてよ!もう僕だって戦えるんだ!学校でだって、成績優秀って褒められたし……」

兵士「勇者殿、魔法使い殿。王の御前にございます。雑談はお控えください」

勇者「す、すみません」

魔法使い「ごめんなさーい……怒られちゃったね」

勇者「君のせいだぞ」

魔法使い「勇者様が頭でっかちだからだよ!」

兵士「勇者殿!魔法使い殿!」

国王「よい、よい。勇者の気持ちもわかるでな」

3: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:39:24 ID:Bz.Byn7M
国王「勇者と魔法使いは、同じ孤児院で暮らし、また、勇者は魔法使いが赤ん坊の頃から面倒を見ていたとの話を聞いている」

国王「ならば、お前の持つ心は、姉弟というよりも、親心に近いものであろう。心配になるのもわかる、余も王である事と同時に、人の親であるからな」

勇者「失態をお見せして申し訳ありません、国王様…」

国王「よい。しかし、神託に間違いは無かろう。魔法使いよ、そなたもまた神に選ばれし者。それを念頭に置き、勇者の力となるのだぞ」

魔法使い「はい!ありがとうございます!」

兵士「此方は、国からの支給品です。旅の手助けにと…どうぞ、お持ちください」

勇者「おお…100ゴールド、薬草、それに新しい長剣。これは有り難い」

魔法使い「僕の法衣と杖もある!」

国王「では、行け!勇者よ!そなたの活躍、期待しておるぞ!」

4: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:41:24 ID:Bz.Byn7M
~大聖堂の街~

勇者「いいかい、魔法使い。何度も言うが、君の才能は素晴らしくも、まだ子供なんだからね?私から離れてはいけないよ」

魔法使い「どうしてわかってくれないのかなあ、勇者様は…僕だって戦えるよ!魔物だって怖くないよ?この間だってねえ、学校の試験で……」

勇者「うん、うん…」ニコニコ


勇者「……と、ここか。他の仲間がいるという酒場は」

魔法使い「仲間だって事は、どうやってわかるの?顔とか知ってる?」

勇者「神託によると、ただ近づくだけで、神から受けた力によって共鳴が起きるらしい。それで騙りなどを防げる、と…その共鳴とやらが、どのようなものかはわからないが…とにかく、中へ入ろう」

魔法使い「僕、酒場って入るのはじめて」ドキドキ

勇者「お酒は飲んじゃダメだよ?」

5: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:42:28 ID:Bz.Byn7M
~大聖堂の街・酒場~

勇者「………」キョロキョロ

魔法使い「共鳴ってのがなんなのかわからないけど、それっぽい人、いないね」

勇者「まだ来ていないのかもしれないな。待とうか。魔法使い、お腹はすいているか?」

魔法使い「あ、僕、ちゃんと朝ご飯食べてきた!」

勇者「そう、偉いね。じゃあ軽食でいいか。すみません、店主。なにか軽くつまめるものと、それからジュースをください」

店主「はいよ、チーズの旨いのがあるからな、それとサラミをクラッカーに乗せようか。酒はどうだい?」

勇者「いえ、待ち人が来たらすぐ出発するので、酒は結構です」

店主「次は夜にも来てくれよ?それが本番だからな、酒場の。はい、クラッカーとジュースだ」トン

魔法使い「わーい、いただきまーす!」

勇者「ちゃんと噛んで食べるんだよ、最低30回だ」

6: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:43:32 ID:Bz.Byn7M
男A「ええ、本当かよ、それ!?」

男B「ああ…生きづらい世の中になったもんだ、全く!」

魔法使い「あそこの人達、ちょっとうるさいね。勇者様」

勇者「シーッ…そんな事を言ってはいけないよ」

男A「隣村は毒消し草栽培で有名だったのにな、魔物に潰されては、毒消し草が手に入り辛くなる」

男B「近くの山にも山賊が住み着いているしな。この間もキャラバンが襲われて酷い騒ぎだったなー」

男A「そんな調子じゃ、またやられかねないね」

男B「ああ、こう言っちゃなんだが、もう終わったな。隣村は」

勇者「………」

魔法使い「…なんか……嫌だね。あの人達も強そうなのに、面白半分に話してさ…」

勇者「行こう、魔法使い。隣村と、付近の山へ」ガタッ

魔法使い「…勇者様!」

7: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:44:22 ID:Bz.Byn7M
魔法使い「ま、待って!勇者様!他の仲間はどうするの!?」

勇者「それもあるが……しかし、困っている人達も見過ごせないよ。一分一秒早く行って、救われるものがひとつでも増えるなら…」

勇者「…魔物と山賊退治を終えたところで合流すればいいんだ。この辺りは基本、一本道だし…大聖堂の街に引き返したっていいんだしな」

魔法使い「もー…勇者様って昔からそうだよね、喧嘩があるとすぐ仲裁に入ったりさー」

魔法使い「…とにかく、僕の初舞台だ……き、緊張してきたかも…オシッコ行っておくべきだったかな」ブルッ

勇者「今のうちに行っておきなさい。…いいかい、魔法使い。君は後方に下がっているんだよ、危ないから前へ出ないように」

魔法使い「は、はい!後ろから、魔法で勇者様を援護するからね!任せてよ!」

8: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:45:08 ID:Bz.Byn7M
~隣村~

村人「魔物を退治してくださり、ありがとうございます、勇者様…!」

村人「お礼がしたいので、せめて一晩でも泊まっていかれませんか。狭い場所で申し訳ありませんが…」

勇者「いえ、私は見返りを求めてはいません、お気持ちだけで充分ですので。安全確保のため、これから魔物の巣があるという洞窟にも行ってきます」

村人「しかし…」

魔法使い「…勇者様、僕、もうオシッコ限界…」モジモジ

勇者「だから出掛ける前に済ましておけと言ったのに。…すみませんが、この子にトイレを貸して頂けませんか?それがお礼内容という事で」

村人「そ、それは一向に構いませんが」

魔法使い「この事は内緒にしてね、オジサン!格好悪いし……早く連れてってー!漏れちゃうよー!」

村人「ああ、はいはい、こっちだよ」

勇者「…他の仲間達はまだ待ってくれているかな、少し気掛かりだ…だが急がないと」

9: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:45:59 ID:Bz.Byn7M
~南の洞窟~

魔物「キシャー!」

勇者「やあッ!!」ザシュッ

魔法使い「火球呪文!!」ボウッ

魔物「ギャアアァ…」

魔法使い「はあ、はあ……ゆ、勇者様、魔物がまた住み着かないよう、洞窟を浄化していくね…」

勇者「大丈夫か?魔法使い。浄化作業なら私もできるから、君は休んでいなさい」

魔法使い「大丈夫だよ!これくらい、なんともないよ!」

勇者「ダメだよ。魔力も尽きかけているだろう?ほら、水を飲んで薬草を噛むんだ。少し元気になれるだろうから」

魔法使い「…僕、薬草嫌い」

勇者「……苦いからか?ふふ、そういうのを子供舌と言って…」

魔法使い「嘘!嘘だから!薬草好きだよ!!大丈夫!」モグモグ!!

勇者「いい子だね。さてと、浄化作業だ…まずは聖水で場を清めて……」

魔法使い「………うえぇ、苦い…」モグ、モグ…

10: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 00:46:46 ID:Bz.Byn7M
勇者「たあぁッ!!」ズバッ

魔物「ギャァァー!」

魔法使い「勇者様、強いなあ……それに比べて僕は、もうヘバっちゃうとか情けないや」

魔法使い「…僕も頑張らなきゃ…!勇者様みたいに強くなるんだ!」グッ

魔物「ギー!ギィー!!」

勇者「っ魔法使い!危ない!」

魔法使い「学校で図鑑を見て勉強したから!この魔物は視野が狭いから…急いで横に回れば、反応が遅れるんだ!」

魔法使い「杖を食らえ!!えいっ!」ボカッ!

魔物「ギャッ!?」

勇者「せやぁ!!」ザク!

魔物「ギギャアア!」

魔法使い「やった!やったー!ほらね、魔法を使わなくても、強いんだよ!僕は!」

勇者「私が居なかったらどうなっていたか……まあ、今回は良しとしよう…」

魔法使い「あ、宝箱だよ、勇者様っ!ふふーん、宝箱って開けるのワクワクするなあ~……わーい、金塊ゲットだぜー!」

11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/12(日) 00:56:12 ID:b0/WYefI
勇者と魔法使いの性別はよ

13: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/12(日) 02:55:55 ID:iiUOkQtk
お、続編来るの早かったね
期待

16: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:34:02 ID:Bz.Byn7M
読んでくださりありがとうございます!

性別は、女勇者と男魔法使いです。わかりにくくて申し訳ない。この先、もう少しわかりやすく書けるよう努力します。

前回よりも投下ペースが落ちる日が多々出てくるかと思いますが、のんびりお付き合い頂けたら幸いです。

17: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:35:38 ID:Bz.Byn7M
勇者「誰かの持ち物か?近くに山賊もいるというしな…魔物がいるのをいい事に、隠し場所にでもしているのか…」

魔法使い「売ったら高いよね?いくらになるかな~、お金増えたら、お菓子も買ってね、勇者様」

勇者「……持ち主がわからない以上、頂いても良いか…いや、しかし……」

魔法使い「何をブツブツ言っているのさ?…勇者様、出口だよ!長いトンネルって感じだったね~、基本的に一本道だし」

勇者「出口も清めたら、このまま先へ進もう。隣村に報告はしたいが、また気を使わせても良くない。魔物さえいなくなればいいのだから」

勇者「しかし、根元である魔王を倒さねば、結局は気休め程度だしな……ううん」

魔法使い「勇者様は何事にも真面目すぎだと思うなー。もうちょっと楽しんでいこうよ、ね?」

勇者「君はこの旅がなんの旅かわかっているのか?遊びじゃないんだぞ、大体この前も…」クドクド

魔法使い「あ、これ長くなるパターンだ…」

18: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:36:29 ID:Bz.Byn7M
~山道~

魔法使い「はあ…はあ……」

勇者「大丈夫か?魔法使い。すまない、気が急いて君に無理をさせてしまったな」

勇者「ほら。おいで、おんぶしてあげる」

魔法使い「だ、大丈夫だよ!!おんぶなんて、恥ずかしいし!…でも、ちょっと休憩はしたい……はあ…」

勇者「ごめんな、これからはもっと気をつけるから。…やはり2人旅には限界があるな…」

勇者「偵察や見張りを分担できる相手…疲労や傷を癒せる者…仲間と合流を先にすべきか……」

?「ハーッハッハー!!お困りのようだね、お2人さん!!!」

勇者「!?」ビクッ

魔法使い「な、なに!?誰!??」

?「君達のアイドルは此処さあ!最も目立つ!高い木の上が私のステージ!!ハーッハッハッハー!!とうっ」バッ

ビターン!!!

勇者「!?!?」

魔法使い「なんか変な人が落ちてきた!」

19: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:37:22 ID:Bz.Byn7M
魔法使い「だ…誰?この変なお兄さん。勇者様、知ってる?」

勇者「いや、流石に知らないよ!…あ、あの、もしもし?大丈夫ですか?」

?「ノオォォウ!!美しい私の美しい顔に傷が!!…しかし、傷ついた私もまた美しい…そうだろぉ!?」ドクドク

勇者「額が割れて血が吹き出してますが」

魔法使い「美しいというより恐いよ!!」

スーパースター「美しさが故に目立つ私の名前は!スーパースター!!ンン~ッみんなのアイドルにして救世主さあ!!気軽にスターと呼んでくれても構わないよ!私は心が広いからね、ハッハッハ!!」ドクドクドク

勇者「あの、いいからまず血をどうにかしないと、そんなに興奮していては」

スーパースター「」ピタッ

勇者「」ビク

スーパースター「っふう……」パタリ…

魔法使い「あ、貧血で倒れた」

勇者「本当になんなんだ、この人は一体!」

20: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:38:25 ID:Bz.Byn7M
スーパースター「ハッハッハ、いやあ君達はラッキーだね、スーパースターの私を介抱する機会だなんて滅多にないんだぞぅ?」

魔法使い「隣村でもらった貴重な薬草なのに、スターさんがみんな使っちゃった…」

勇者「貴方、一体なんなのですか?あんな高い木の上から飛び降りるなんて、どうかしていますよ!危ない事はやめなさい!」

スーパースター「こんなにも美しい私が目立たない世の中なんて、間違っている!!私は輝かなければならないんだー!その為ならば例え火の中水の中さー!」

魔法使い「何がそんなにも貴方を追い詰めるの」

スーパースター「麗しきお嬢さん!!健気な少年くん!!美しい君達に私は感動した!なので君達を助けようじゃないかあ!」

勇者「どうしよう、この人が何を言っているのかさっぱりわからない」

21: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:39:06 ID:Bz.Byn7M
スーパースター「さあ!私のダンスを見て元気を出したまえ!!ハーッハッハー!!そーれハッスルハッスル!」ブシュー

魔法使い「そんなに暴れたらまた血が!」

スーパースター「ハッハッハー!!ハッスル!ハッスル!!」ブシャアァ

勇者「血を吹き出しながらも踊っている!?」

スーパースター「美しい私の美しいダンスで元気にな~ぁれぇ、ハッスル!ハッスル!!」ドブッシャアア!!

勇者・魔法使い「「ひいいぃぃー!!?」」

スーパースター「」ピタッ

スーパースター「っふう」パタリ…

魔法使い「ああっやっぱり倒れた!」

勇者「キリが無いな……もう一度だけ手当てをして、彼が気絶している間に先へ進もう。なんだか関わってはいけない気がする…」

魔法使い「勇者様にそう思わせるなんて。この人ある意味すごいのかも」

スーパースター「」ドクドクドク

22: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:40:56 ID:Bz.Byn7M
魔法使い「あの人、本当に大丈夫かなあ…?」

勇者「気にはなるけど…あの調子じゃ延々続くだろうし…山賊退治を終えたらまた様子を見に来ようか…でもな…」

魔法使い「勇者様…嫌だったら無理しなくていいと思うの」

勇者「ところで魔法使い、疲れはもう大丈夫なのかい?息切れもなくなっているようだが」

魔法使い「あ、あれ?そういえば。ビックリしすぎて疲れが飛んだのかなあ?なんだか体が軽いや」

勇者「ふむ…その点は彼に感謝すべきなのか、な……?」

魔法使い「あ!勇者様……あそこ、あの人達!あれが山賊のアジト?」

勇者「む。……どうやらそのようだ。洞窟を根城にしているのか…見張りは……2人、中に何人いるかが知りたいな…」

スーパースター「山賊は全部で8人さ、さっき3人程、外に出て麓へ降りる話をしていたからね、中にはあと3人いると見て間違いはないだろう」

23: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:41:46 ID:Bz.Byn7M
勇者「そうか、そのくらいの人数なら、上手くやればここの壊滅は難しくないかな」

スーパースター「ああ、まずは中にいる奴らに気づかれないよう、見張りを叩くべきだね!」

勇者「うむ……」

勇者「………」

魔法使い「………」

勇者「何故貴方がここに!?」

スーパースター「ハッハッハ!!活躍し目立てる場所ならばどこだって私のステージさあー!!」

魔法使い「傷はもう大丈夫なの!?あんなに血をいっぱい出していたのに!」

スーパースター「美しい私が死んでは、世界が破滅してしまう!故に私は不死身なのさ!大丈夫、ツバつけたら治った」

魔法使い「そんなレベルの怪我じゃなかったでしょう!?」

スーパースター「私の体液は美しすぎるが故に、傷をも治してしまうのさ!」

勇者「意味がわかりません!…も、もういいから静かにしていてください、山賊達にバレてしまう!」

24: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:43:37 ID:Bz.Byn7M
勇者「素早い行動が鍵となるな。魔法使い、私が一人を叩くと同時に、もう一人へ攻撃魔法を撃つんだ」

スーパースター「美しい私は君達を応援するべく、美しいダンスを…」

勇者「しなくていいです!ジッとしていてください!頼むから!!」

見張り1「ふわあぁ…暇だなぁ…」

見張り2「こんな山奥で、見張りなんて必要ないんじゃねーか?ったく、お頭はよう…」

勇者「いち…」 魔法使い「にの…」

勇者・魔法使い「さん!!」バッ

見張り1「うわ!?」

見張り2「な、なんだっ!?」

勇者「せいっ!!」ドスッ

見張り1「ぐわぁっ!」

魔法使い「氷礫魔法!!」バコッ

見張り2「ぎゃあっ!」

スーパースター「ハーッハッハッハー!!その鮮やかにして華麗な動き!美しいぃ!!これならバレずに中へと入れるな!」

勇者「貴方が騒ぐからバレそうですけどね!?」

25: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:44:30 ID:Bz.Byn7M
勇者「やあッ!!」バキィッ

山賊A「ぎゃああっ!」

スーパースターは 陽気な踊り を 踊っている

魔法使い「氷礫魔法!!」バシィッ

山賊B「痛ェェ…ッ!!」

スーパースターは 鏡に映る自分に 見惚れている

スーパースターは

勇者「なんなんですか、貴方はぁぁ!!」ブンッ!

山賊頭「一本背負いぃ!?」ブワッ

スーパースター「スーパースターです!!!」ドゴス!!

魔法使い「勇者様が投げたボスとスターさんがぶつかった!」

勇者「ぶつけたんだ!!おとなしくしていろと言ったじゃないか、何をやっているんですか、緊張感のない!」

スーパースター「ハッハッハ、しかしテンションが上がって攻撃力が増したろう?これで山賊達は粗方片付いた、さあ彼らが起きないうちに縛るんだ、美しくね…!」ボタボタ

魔法使い「鼻血いっぱい出てるよ?」

スーパースター「美しい私は鼻血を垂らしても美しく耽美なのさ…!」

26: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/12(日) 13:45:20 ID:Bz.Byn7M
魔法使い「よいしょっ、と。…勇者様!山賊達全員縛ったよ!」

勇者「お疲れ様。さて…流石にこの人数を引き連れるのも大変だし、他にもいるみたいだし…一旦大聖堂の街に戻るか。兵士に通報して、それから仲間と合流を…」

スーパースター「それなら私に任せたまえ!!近くに山間の村がある、腕の立つ衛兵がいると有名だからね、彼に通報した方が早いだろうさ!」

勇者「そ、そうですか。ならお任せしますよ…もう」

魔法使い「じゃあ僕達は街に引き返して…」

スーパースター「おっと!山を行ったり来たりは体力を使うよ?反対側の砂漠方面へ真っ直ぐ行くのがいいんじゃないかなあー!?」

勇者「あの、いちいち顔を近づけて喋らないでもらえませんか。私達は仲間と合流しないと…」

スーパースター「さあ!さあさあさあ!!先を急ぎたまえよ!夜も更けてしまうからね、ハーッハッハー!」グイグイ

勇者「ちょ!ちょっとー!!」

27: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/12(日) 14:27:48 ID:EzoDqJTA
やっとこ追い付いた
続きに期待

28: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/12(日) 15:13:54 ID:bqaIc6Vs
今回盗賊と僧侶と賢者は出ないんかな?

30: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:12:06 ID:vGnqazns
ありがとうございます!

はい、今回は合流後の話も書こうと思います。

31: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:13:23 ID:vGnqazns
~山の温泉~

勇者「く、勢いに飲まれてしまった……私も修行が足りないな…」

魔法使い「勇者様の名前をたっぷり売ってくる!なんて言っていたけど、大丈夫かなあ?」

勇者「いいよ、もう。なんだか、とにかく関わりたくない。あの人は苦手だ…」

魔法使い「あ、勇者様!見て、すごい湯気だよ!僕、本で読んだ事がある。これって温泉っていうんだよね?自然界のお風呂!」

勇者「すっかり夜も更けたしな…今日はここで休もう。野外でも風呂に入れるのは、とても有り難いな…」

魔法使い「ふわあ~、やっと休めるんだ……一気に来たから、もうクタクタだよ…僕も早くお風呂入りたいや」

勇者「よし、まずは薪を拾って火を焚いておこう。魔法使い、あとひとふんばり頼めるかい?それから温泉だ」

魔法使い「はい!火種は任せてねっ!」

32: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:14:11 ID:vGnqazns

勇者「ふう…疲れが癒えるな、この解放感も最高だ」チャポン

魔法使い「わあー温泉って広いなあ、泳いじゃえ!」バシャバシャ

勇者「魔法使い、泳ぐばかりでなく、肩まで浸かりなさい。100数えて温まらないと、風呂の意味がないよ」

魔法使い「もう、いちいちうるさいなあ勇者様はー」

勇者「拳骨が欲しいのかな?……ん?ちょっと、こっちに来なさい」

魔法使い「え、え、やだよ、ぶたれたくないもん!」

勇者「ぶたないから!……これは…一体どうしたんだ?この、背中にある傷のようなものは」

魔法使い「え?…僕からは見えないけど…知らないよ、魔物にも背中はやられなかったけどな…」

勇者「…痣…いや、古傷のよう…薄くはあるが、こんなの、ついこの間までなかったのに」

魔法使い「別に痛くもないし、どっかでぶつけたとかじゃない?それよりもういいでしょ?流石に恥ずかしいよ…」

33: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:15:21 ID:vGnqazns
勇者「恥ずかしい?何がだ、背中を見るくらい普通だろう」

魔法使い「僕も勇者も裸じゃない!それで恥ずかしがらない方がおかしいよー!」

勇者「そんな事を気にして、別の温泉に入ったのか?風呂なんて、最近まで一緒に入っていたのに、今更だ」

魔法使い「それは僕が子供の時の話でしょう!?も、もういいよー!あっちの温泉に戻るからね!僕!」

勇者「あっ、こら!そんなに慌てたら危ないぞ!…まったく…今だって子供のくせに」

魔法使い「勇者様のバカ!いつまでも僕を子供扱いしないでよ!僕、男なんだよ!?女の勇者様と一緒のお風呂にはもう入らないから!」

魔法使い「もう、もう!絶対この旅で強くなって、勇者様をギャフンと言わせてやるから!」

勇者「ギャフン」

魔法使い「心が全然こもってないー!やりなおし!!」バシャバシャ

勇者「こら、湯をかけるな。あはははは…」

34: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:16:03 ID:vGnqazns
チュン チュン

魔法使い「ふわあぁ…おはよう、勇者様…むにゃむにゃ…」

勇者「おはよう、魔法使い。さ、朝御飯を食べよう、そこの川で顔を洗っておいで」

魔法使い「はあい…うーん……まだ眠いや…」

勇者「昨日は1日で頑張りすぎたからな。無理もない、私も少し疲れてしまったよ。…大半は気疲れだが…」

魔法使い「朝御飯はなんだろなー、…あ、美味しそう!!木の実と…これは山菜?へへー、勇者様の料理、僕大好きだよ!」

勇者「ふふ、ありがとう。よく噛んで食べるんだよ。…さて…あの変態がいない今がチャンスか、やはりここで引き返して、仲間と合流を…」

魔法使い「…?勇者様、あれ、なんだろう?あそこ、なんかくねくね動いているの……」

勇者「んっ?………!!!(あれは、昨日の変態!?踊っている…こ、こっちに来る!?)」

勇者「わ、わからない方がいい…!早くご飯を食べて、すぐ出発しよう!下山するんだ!」

35: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:16:52 ID:vGnqazns
~砂漠の入口~

馬屋「はいはい、いらっしゃい!砂漠を渡るには砂馬が一番!歩いて行ったら即ミイラ化だよ、悪いことは言わない、砂馬に乗って行きな!」

勇者「結局、仲間と合流できないまま、ここまで来てしまったな…」

魔法使い「これからどうしようね?勇者様。引き返す?」

勇者「引き返して、もしまたあの変態に会ったらと思うと…!」ブルブル

魔法使い「あああ…勇者様のトラウマが加速している…」

馬屋「勇者?あんたら、あの勇者様御一行なのかい?」

勇者「あ、はい。一応、そうですが…」

馬屋「…へえ!こりゃいいや、勇者様も利用したなんて言ったら、良い宣伝になるなあ!さあさあ勇者様!どうぞ、うちの砂馬をご利用ください!砂漠の王国まで安心安全にお届け致しますよ!」

勇者「えっ、いや、私達はまだ……」

36: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:17:41 ID:vGnqazns
馬屋「勇者様、お言葉ですが、今躊躇うのはよくないかと。近々砂漠の国が戦争を起こすという噂が流れているんでね、今のうちに砂漠を渡らないと、かなりの期間、ここらで立ち往生する羽目になりますよ」

勇者「…戦争?」

馬屋「砂漠の国は、唯一のオアシスを守る街に隣接した王国なんですがね。そのオアシスも、年々水が減り始めているんですよ」

馬屋「砂漠の中で孤立する国にとって、死活問題だ…だから他所の国へ戦争を仕掛けて、領土拡大を狙っているみたいで」

魔法使い「なんだか…嫌な話だね……」

馬屋「戦争の噂が本当なら、砂漠の国は近々封鎖されちまう。そこで休めないとなると、砂漠を真っ直ぐ横断するのは、かなり厳しいと思いますよ?砂漠は広いから」

馬屋「特に、そんな坊やを連れて歩くなら尚更だ。だから今のうちに砂漠へ入って、先へ進む事をおすすめします」

37: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:18:26 ID:vGnqazns
勇者「ううむ…どうしたものかな。仲間と合流したいんだが…先に進めなくなるのも困るし…戦争の話も気になる」

魔法使い「引き返しても、こう開けた場所じゃあ出会うのは難しいよね?伝言とか残して先に進む…?」

勇者「もしかして、仲間がまだ大聖堂の街にいたらどうする?ああ…勇んで飛び出さなければ良かったな…」

魔法使い「今更だよ、勇者様……勇者様は考えなしに突っ走る性格でしょう?らしくないよ!いっそ悩むくらいなら、先へ進も?」

勇者「魔法使い…励ましてくれて、ありが…ん?励ましてもらったんだよな?」

魔法使い「すみません、おじさん。お馬を貸してください。それと、もし此処に僕達を探す人が来たら、砂漠の国へ行ったと伝えてもらえませんか?」

馬屋「わかった、覚えておくよ。砂馬は2匹用意すればいいかな?値段は少しサービスするよ!勇者様相手だしね」

38: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:19:14 ID:vGnqazns
勇者「魔法使い、君は馬に乗れないだろう?」

魔法使い「うん。何回か、学校で乗馬授業はあったけど…その時は先生が一緒だったし、ちょっと自信ない…」

馬屋「砂馬は普通の馬よりもおとなしく優しいけど、坊やが一人で乗るのは少し危ないかもしれないね」

勇者「いいよ。私と一緒に乗ろう。もう一匹には荷物を乗せるか、そうすれば身軽になるから、もし魔物に会っても、すぐ対応できる」

魔法使い「ごめんなさい、勇者様」

勇者「馬の代金はこれで良いだろうか。換金する暇がなかったんだ…」

馬屋「わ、随分立派な金塊だねえ。充分すぎるくらいだ、お釣りが必要になるよ、これは。ちょっと待ってて、用意するから」

勇者「もし良かったら、水や食糧も分けて頂けませんか?」

馬屋「はいはい!お任せあれ!砂漠の国まで快適に着けるよう、たっぷり用意するからね!」

39: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:20:01 ID:vGnqazns
~砂漠~

魔法使い「うはあぁ……暑いー…!くらくらしちゃう…」

勇者「ちゃんとフードを被りなさい、こういうのは熱気以上に、日射しが怖いんだから」

魔法使い「うー、蒸れるよ~、お風呂入りたいよ~、水浴びがしたいよ~」

勇者「馬を借りて良かったな…ここをずっと歩くとなったら、いくら体力があっても続かないぞ…、……!」

砂馬「ヒヒィィーン!!」

魔物「ギシャアー!!」ドバァッ

勇者「魔物だ!砂の中に潜んでいたのか!」ジャキ

魔法使い「こいつ、魔物図鑑で見た!サソリが魔王の影響で魔物になったやつだ!」

勇者「弱点はあるのか!?見るからに装甲が硬い、剣が通りそうにないぞ」

魔法使い「尻尾みたいな部分だよ、勇者様!そこの関節が比較的柔らかいって、だからきっと剣でも斬れるよ!」

40: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 00:20:48 ID:vGnqazns
魔法使い「氷礫魔法!!」バシィ! バシッ!

魔物「ギシャアッ!?」

魔法使い「へへーんだ!ずっと乾いていたところに、いきなり冷たいのは凍みるでしょ!?」

勇者「距離を詰めるぞ!魔法使い、しっかり掴まってて!はあァッ!!」バシィッ

砂馬「ヒヒィィンン!!」ドドッ ドドッ

勇者「成程、回り込んで見れば関節部に少し肉が露出している…」

魔法使い「勇者様!気をつけて、そいつ、風の魔法も使うからね!」

魔物「シシャアアァ!!」スパパパッ!

勇者「ぐっ…!なに、このくらい……そよ風だ!!」

勇者「たあああぁッ!!」ズバァッ!!

魔物「ギィャヤアアア!!」

魔法使い「尻尾が落ちたところに……もう一回!氷礫魔法!!」バキィン!

魔物「ギャアアアー!!」

勇者「よし!スムーズに倒せた…ありがとう、魔法使い。君のおかげだ!」

魔法使い「へへー、褒められちゃった!」

41: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:43:15 ID:vGnqazns
勇者「しかし、君の才能は本当に素晴らしいな。いつも驚かされるよ、魔法だけじゃない、知識の量。ご両親からの賜物だね…」

魔法使い「…お父さんとお母さん…お父さんは魔法部隊に所属していたんだよね」

勇者「ああ。博識で、とても強いお方だった。お母様だって、私達の孤児院の聖母様と慕われていたよ?私は捨て子だったから…君が本当に羨ましい。亡き父母の事を知っているのが」

魔法使い「…勇者様にだって、いるでしょ?家族が。僕を忘れないでよね!」

勇者「忘れてなどないさ。ふふ、ありがとう。魔法使い」

魔法使い「僕、もっともっと勉強して、お父さんみたいに魔法部隊に入りたいな。隣の大地にある、魔法の街にも行ってみたい!魔法研究がすごく盛んだっていうし」

魔法使い「その為には早く魔王を倒さなきゃね!いつでも好きな時に行き来できるように」

勇者「ああ!頑張ろうな!」

42: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:44:09 ID:vGnqazns
~砂漠の国~

門番1「ここから先はオアシスの街、砂漠の国だ」

門番2「旅人よ、よくぞ参られた。道中大変であったろう、この街で渇きを潤し、疲れを癒すが良い」

勇者「ありがとうございます。…あの、この国が戦争を考えているという話は…本当なのですか?」

門番1「…うむ…民の不安を煽る故に、あまり口に出して欲しくはないが…致し方なし」

門番2「オアシスが干上がるかもしれぬ恐怖。旅人のお前達には、想像が難しいかもしれんが…我が王も大変悩んでおられる」

魔法使い「オアシスを守れたら、戦争は起きないのかな?どこからか水を汲んでくるとか…は、難しいのかな…」

門番1「しかし、あくまでまだ噂の段階」

門番2「我が王は何よりも民の安全を第一に置く、心優しきお方。そのお心は旅人のお前達にも等しく与えられよう」

43: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:45:04 ID:vGnqazns
門番1「さあ、我が国へと入られよ。我々はお前達を歓迎しよう」

門番2「この砂馬達は我らが癒し、馬屋に返しておく。砂漠から出たければ、我が国の馬屋を尋ねると良い」

魔法使い「ありがとうございます!お馬さんも、ありがとうね!お疲れ様!」

砂馬「ブルルル……」

勇者「砂漠の熱気でだいぶ疲労もしたしな…宿を取って休むか。防具なども新調したいところだが」

魔法使い「魔物から獲た皮や殼を売ったら、お金になるかなあ?」

・・・

門番1「む、最近は我が国に訪れる者が多いな」

門番2「よくぞ参られた、旅人よ。……お前、まさかこの広い砂漠を歩いて来たのか?そんな軽装で!?」

仮面男「………」

門番1「なんという剛の者か…信じられん…」

門番2「なんにせよ、早く街へ入られよ。我々は旅人を拒まぬ、道中の疲れを癒、せ……!?」

―― キイイィーン…

44: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:45:54 ID:vGnqazns
仮面男「誰彼構わず拒まずじゃあ、少し困るんだ……」キイィィン

門番1「あっ、あっ……?」

仮面男「これから傷を負った青年と、彼を支える少女が来る。いいか、そいつらだけは、決してこの国に入れるんじゃない。何がなんでも追い返せ、嘘を吐いてでもな」キイィィン

門番2「うああ、あ…あ……?」

仮面男「よしよし、イイコだ…さあ……門を閉じろ!!堅固にして!強固である!その門を!!」

門番1&2「はい……畏まりました…」

ゴゴォォンン…

仮面男「ふふふ……次は王だな…」

―――

僧侶「どうして!どうして入れてくれないんですかあ…!お願い、助けて…!盗賊さんが怪我をしているの、お願いします、助けてください…!」

盗賊「…いい。クソアマ……もういい、行こう…時間の無駄だ…」

僧侶「でも…!でも!盗賊さんんっ…!!」

―――

45: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:46:43 ID:vGnqazns
~砂漠の国・オアシスの街~

勇者「いい宿屋が見つかって良かったな。ベッドがすごく久し振りに感じる」

魔法使い「砂漠で孤立している、なんて言うから、正直寂れたところを想像していたけど…すごく賑やかな街だね!人もお店もいっぱいだ」

勇者「キャラバンも見かけたな。行商も積極的に受け入れているんだろう。孤立しているとはいえ、ここは広い砂漠の唯一の休憩地点…戦争など起こさなくとも、やっていける気もするが…」

魔法使い「王様が考え直してくれるといいね…」

勇者「ああ…叶う事なら、一度謁見したくもあるな…王のお考えを直に聞いてみたい」

勇者「ともあれ、体を休めよう。ここに滞在している間、仲間と合流出来ればいいが…。魔法使い、お風呂へ入ろうか」

魔法使い「お風呂は別々に入るからね!!」

勇者「む…もしやこれは反抗期か…?なんだか寂しい」

46: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:47:32 ID:vGnqazns
~大衆酒場~

魔法使い「ここのご飯、すごく美味しいよね!」

勇者「うん、いい味を出している。レシピが知りたいな、私も作ってみたい」

魔法使い「勇者様、料理好きだもんね。…ところでそんなにお酒飲んで大丈夫?もう一本空になっちゃうじゃん」

勇者「私にとっては水みたいなものだから。だが魔法使い、君は飲んじゃいけないからね?お酒は大きくなってからだ」

魔法使い「けち!」

勇者「ふふん、大人の特権だからね、お酒は」

ガシャーン!!

荒くれA「ふざけんなよ、てめえ!」

荒くれB「俺達の服に酒をぶっかけやがって!」

荒くれC「その態度も気に食わねェ、ぶっ飛ばしてやる!!」

魔法使い「な、なに?喧嘩?」

勇者「やれやれ。いくらなんでも一人を数人で囲むのは見過ごせないな。仲裁してくるか……」

47: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:48:19 ID:vGnqazns
魔法使い「…!ちょっと!勇者様、あれ、あの囲まれている人って!」

勇者「え?………、………な!?!?」

スーパースター「ハーッハッハッハー!だからこうして美しく謝っているじゃないか、許してくれたまえよ!ちょっとステップを間違えてしまったのさ、美しい私も時にはミスを犯すからね、美しく…!」

勇者「な!なんであの変態がここに!?」

スーパースター「おお!そこに居るのは麗しのお嬢さんに健気な少年くんじゃあないか!!」

魔法使い「なんで!?なんでここにいるの!?山でお別れしたのに!」

スーパースター「目立てるステージがあれば私はどこにだって参上するのさ!!うん、すっごい頑張って走ったら追いついた」

魔法使い「そんなレベルの距離じゃないでしょう!?あの砂漠も走ってきたの!?」

スーパースター「ハッハッハ!まさか!いくら美しい私でもそれは!私の華麗な乗馬技術が見たいのなら、いつでも言ってくれたまえよ!」

48: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:49:04 ID:vGnqazns
荒くれA「なんだてめえらは!こいつの仲間か!?」

勇者「いえ、まったく無関係の人です」

魔法使い「勇者様がついに見捨てた!!」

スーパースター「ハッハッハ!君達の前では例え美しくも失態は見せられないね!いいだろう、降りかかる火の粉を払ってみせようじゃあないかー!」

荒くれB「降りかかるっつーか、てめえが俺らに酒をぶっかけたんだろうが!!」

スーパースター「そう!華麗にして美しく足がもつれてしまったのだよ!!しかし謝っても許してくれないならば、黙らせるしかないだろう!?」バッ!!

勇者「ぎ、ぎゃああああ!!?」

荒くれC「なんなんだよてめえ!いきなり服を脱ぎやがって!」

スーパースター「喜べ!私の美しい、もっこりブーメランパンツ姿など、美しくない君達が見る機会は一生無かったはずなのだから!そして封印されし秘奥義が発動!!その名は…

―― "ラン・バーダ"!!」カッ!!!

49: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:49:51 ID:vGnqazns
チャーッチャチャララーチャラララチャララララー♪

スーパースター「ハーッハッハッハッハ!!」

荒くれA「ぎゃああああああああああ!?」

チャーッチャチャララーチャラララチャララララー♪

スーパースター「それそれそれぇ~!!」

荒くれB「やっやめろ!!股間を擦り付けんな!触るなあああ!!」

チャンチャララーチャララーラララー♪
チャラチャラチャラチャラチャラララー♪

スーパースター「はい!はい!!はいぃぃぃぃ!!」

荒くれC「んほおおおおおお!!?」

ジャンッ!!!


荒くれ達「」ピクピク…

スーパースター「ふう……今日もまた美しい私のファンが増えてしまった…」

魔法使い「あ、あわわ……踊りだけで倒しちゃった…」ガクガク

勇者「へ!!変態だー!!!」

50: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/13(月) 13:50:35 ID:vGnqazns
兵士A「乱闘が起きたと通報があったのはここか!?」バターン

兵士B「荒くれ共と…そして変態半裸男!確保!」

スーパースター「おおう?異議ありだよ兵士殿…見たまえ!今の私は美しいパンツ一丁姿だ!ならば半裸ではなかろう、3分の2裸じゃないかね!?」

兵士B「わけのわからない事を言うな!さあ来い!」

兵士C「お前達もだ!」グイ

魔法使い「え!?僕達は何もしていません!」

兵士C「あの変態と親しげに話していたとの証言があるんだ!来い!騒ぎを起こした罪で、牢屋に閉じ込めてやる!」

勇者「え、冤罪だああああああ!!」

魔法使い「どうしよう、勇者様ぁぁー!!」

スーパースター「美しい私を独占したい気持ちを抱く事こそが罪ではないかね?私はスーパースター!みんなのアイドル、スーパースターだよ!ハーッハッハー!!」

51: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/13(月) 16:43:32 ID:CSkNHqLE
続編か

52: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/13(月) 18:06:25 ID:yo0nyEuc
ほう、仮面男か

53: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/13(月) 20:06:46 ID:VwUPUwDk
ほう、ど変態か

54: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/13(月) 22:34:12 ID:/gOahrt6
なぜかキタキタおやじを思い出した。

支援

56: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/14(火) 00:14:14 ID:ev8bv43A
>>54
ソレだわwww

57: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:34:09 ID:3RDPSjSY
読んでくださりありがとうございます。

カセギゴールドの弱点は今も頭に残ってるww

58: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:35:26 ID:3RDPSjSY
~砂漠の国・牢屋~

魔法使い「牢屋に閉じ込められてから何日経ったのかなあ…兵士さん、僕達の話、全然聞いてくれないし…」

スーパースター「私の取り調べの時に、美しくアピールしておいたからね!君達は美しい私の美しい親友であると!」

勇者「親友っていつのまに、というか何をしてくれてんですか!貴方は!!私達は無実だー!」

兵士「うるさいぞ!静かにしないか!」

勇者「ううう…なんて事だ…牢屋に入れられるなんて、情けないにも程がある……国王様や仲間達に顔向けできないよ」

スーパースター「おおう…嘆く乙女というのも実に美しいねえ。その不安に満ちた表情!憂いを帯びた瞳!ひとつの芸術のようじゃないかー!!」

勇者「貴方のせいですよ!?だから何故そう呑気にしていられるんですか!理解できません!」

兵士「うるさいと言っているだろう!!」ダンッ

59: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:36:24 ID:3RDPSjSY
スーパースター「ハッハッハ、うるさいだなんて芸術のわからない兵士殿だなあ…乙女の悲痛な叫び!実に甘美な旋律だというのにねえ…」

勇者「許されるなら私が貴方に罰を下してやりたいですよ。もうやだこの人」

魔法使い「………」モソモソ

勇者「……?どうした?魔法使い。さっきから落ち着きがないけど」

魔法使い「うーん…なんか肩の後ろ辺りがムズムズするような感じがして…」

スーパースター「虫にでも食われたのではないかね?ここはとても不潔だからねぇ、虫などいくらも湧くだろう……」

スーパースター「だが!美しい私なら!例え暗く不衛生な牢屋でも、美しく輝けるのさー!!みんなを照らす太陽、その名はスーパースター!ハーッハッハッハー!!」

兵士「うるさい!!」ゴツ!

スーパースター「ぐはあ!」

勇者「よし!」グッ

兵士「…何故、仲間を殴られて満足気な顔をするんだ」

60: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:37:13 ID:3RDPSjSY
勇者「この変態が仲間かどうかはさておき、私達はいつになったら釈放となるのですか。そもそも私達は何もやっていません、巻き込まれただけです」

スーパースター「美しい私も美しいダンスを披露しただけなのだが?」

勇者「貴方は黙っていてください、できれば永久に」

兵士「……貴様らの釈放はずっと先になる、それだけは言っておこう。いいか、静かにしていろよ。騒ぐんじゃないぞ」

勇者「待って!待ってください!!私の話を聞いてください!」

魔法使い「兵士さん、行っちゃったね…」

勇者「くそ…!こんな事している場合じゃないのに!どうにかして無実だとわかってもらわないと…」

荒くれ「……あの兵士の言う事はマジだろうぜ?あんたらは暫く出られないだろうよ」

スーパースター「その声は…美しい私に絡んで来た、美しくない荒くれくんじゃあないか。隣の牢屋にいるのかね?」

61: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:37:58 ID:3RDPSjSY
荒くれ「兵士達の雑談を聞いちまったんだよな。あんたら、あの勇者御一行なんだろ?」

荒くれ「この国は近々戦争を起こすって噂があるんだが…勇者となればかなりの戦力だからな、その為に拘束しているんだろうって話だぜ」

魔法使い「そんな!勇者様を物か何かみたいに言わないでよ!」

荒くれ「落ち着けよ、俺が言ったわけじゃねぇんだから」

勇者「………」

スーパースター「ハッハッハ、しかしあり得ない話でもないねぇ。お嬢さん、君の強さは私もよく知っている。戦場に立てばまさに一騎当千。人間で今の君に勝てる相手など、隣の大地にある王国の聖騎士団くらいだろうさ!」

魔法使い「人間同士で争うなんて…勇者様を道具にするなんて、そんなのおかしいよ!」

勇者「…真意はどうあれ、ここに閉じ込められていてはどうする事もできないな…王と謁見叶えば良いのだが…」

62: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:38:47 ID:3RDPSjSY
スーパースター「それも難しいだろうね、今や私達は美しくさえずるだけの籠の鳥だ……ここから脱出するか、戦争が始まるかしないと、王との謁見は叶わないと思うよ」

勇者「脱出って…牢屋から勝手に出たら、それこそ刑期が伸びてしまうんじゃないですか?現実味のない…この頑丈な牢屋の錠前を見てから言ってくださいよ、開けられるわけがない」

スーパースター「ハッハッハ!私に任せたまえよ!こういう時は床を掘って抜け穴を作り、そこから脱出すればいいのさー!この瓦礫を使って、さあいくぞ!」ガッガッガッ

魔法使い「何十年かかるの、それ!出る頃にはおじいちゃんになっちゃうよ」

勇者「気が済むまでやらせておけ。……それよりも、魔法使い。もう肩を弄るのはやめなさい、首の辺りまで赤くなっているよ?かなり掻いたのか」

魔法使い「だって、ムズムズして仕方なくて…」

63: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:40:49 ID:3RDPSjSY
荒くれ「…脱獄したいってんなら、手伝ってやらねー事もないぜ?」

勇者「………え?」

荒くれ「お前らがいる牢屋にはな、秘密の抜け穴があるんだよ。一番端の、少し浮いている床板を調べてみろ」

魔法使い「………、………!ゆ、勇者様…!これ、誰かが掘った抜け穴みたい…」

勇者「なんと…!しかし、何故貴方がこの穴の存在を?」

荒くれ「俺は何度もここにぶち込まれてっからな。だが、何度だろうとその牢屋には当たらなかった…運命ってやつだろうよ」

荒くれ「その穴は昔そこに入っていた奴が掘ったって話だ、兵士らは知らない秘密の抜け穴よ。意外とザル警備なんだよな、ここ。それを通れば、牢屋の外に出られるぜ…」

魔法使い「勇者様、ここから出よう!僕、勇者様が戦争に駆り出されるなんて嫌だよ。ここから逃げようよ!」

勇者「し、しかし……脱獄だなんて、そんな事は…」

64: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:41:39 ID:3RDPSjSY
スーパースター「何を迷う必要がある?このまま無駄に時を過ごすより、断然いいじゃないか。ここは観客が少ないから、私も早く出ていきたいよ!」

勇者「こんな状況下にあるのは、そもそも貴方が原因だとわかっているんですか?」

魔法使い「おじさん、抜け穴の事を教えてくれてありがとうございます!」

荒くれ「なあに、構わねーよ。……俺はまた、あのダンスをやってもらえれば、それで…」ポッ

スーパースター「ハッハッハ、美しい私は美しく悪寒を抱く事にしようじゃないか!ちょっともうマジで早く逃げたい」

勇者「あんな踊りをしておいて、今更ですよ」

スーパースター「美しくないものに興味はないのでね、私は!」

勇者「私はやっぱり脱獄なんて反対だ。元々無い罪を重ねるわけにはいかない。きっと、訴え続けていればわかってもらえるよ」

魔法使い「わかってもらえないから、何日もここにいるんでしょ!?」

65: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:42:27 ID:3RDPSjSY
勇者「う……だが、しかし…」

魔法使い「こうしている間にも、他の仲間がどこかに行っちゃうかもしれないじゃない。魔王だって何をしてくるかわからないんだよ」

魔法使い「それに僕は、やっぱり嫌だよ!勇者様が戦争に連れていかれるかもしれないって思ったら、嫌だよ!ねえ、逃げよう?逃げようよ!勇者様!」

勇者「うう…」

スーパースター「ハッハッハ!まあまあ、まずは逃げてから先の事を考えようじゃないか!逃げてから、冤罪である事を訴え、脱獄の罪を償う何かを探せばいい!」

勇者「だからそもそも事の発端は貴方で……」

荒くれ「穴を抜けた先は兵士達の休憩所傍だ、気をつけていけよ、兄貴…」ポッ

スーパースター「ハーッハッハッハー!貞操の危機を感じるよ!ひしひしとね!さあ速やかに逃げよう!お願いだから!!」グイグイ

勇者「ちょっと待って、私は脱獄に賛成していない!!ちょっとー!」

66: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:43:13 ID:3RDPSjSY
勇者「あああ…最近流されっぱなしだ、こんなの私のキャラじゃない…」

魔法使い「狭いねー、この抜け穴…スターさん、まだ外につかないの?」

スーパースター「いや、出口が見えてきたよ。…あの美しくない荒くれくんが言った通りだな、兵士達がぞろぞろいる。息を潜めて目を盗み、華麗に脱出しなければ」

勇者「見回りの兵士が後ろを向いた瞬間を狙って動こう…物音を立てないよう、素早く向こうの物影に隠れるんだ」

スーパースター「ハッハッハ、あれだけ文句を言っていたわりには、随分乗り気じゃないか」

勇者「こうなったらもう、腹をくくりますよ!毒を食らわば皿まで…脱出したあとで、貴方には痛い目見てもらいますからね!」

スーパースター「何故だい!?君が怒る理由が私には皆目見当つかないよ!!」

魔法使い「あ、兵士さんがあっちに行った。今のうちだよ、勇者様!」

67: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 00:43:55 ID:3RDPSjSY
勇者「……よし、掻い潜れたな。次は…見張りが2人か……」

スーパースター「………」ウズウズ

魔法使い「どっちか片方だけでも動いてくれないかな…向こうに外へ行ける門が見えるのに~」

スーパースター「………」ウズウズウズ

勇者「焦るな、ここはじっと堪えて機会を待つんだ…下手に動いたら見つかって、また牢屋に戻されてしまうから…」

スーパースター「はああああん!!!」

勇者「!?」ビクッ

魔法使い「!?」ビクッ

兵士「だ、誰だ!?なんだ今の声は!!」

スーパースター「もう我慢の限界だよ!誰かの注目を奪われるなんて堪えられない!目立ちたい!注目されたい!暗くじめじめとした牢屋から脱出できた今!籠から脱出できた今、私は大空に羽ばたく美しい鳥なんだ!!外の空気が私を呼ぶ!歌えよ舞えよと呼んでいるー!!」

魔法使い「ちょ、ちょっと、スターさん!!落ち着いてよ!そんなに騒ぐから見つかったじゃんかー!!」

68: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/14(火) 03:04:36 ID:yTyGnPdg
oh...

69: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/14(火) 12:19:10 ID:Gfxjet5k
もう笑うしかないwww

72: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:16:06 ID:3RDPSjSY
兵士A「脱獄だー!そいつらを捕まえろー!!」

勇者「何をやっているんですか、貴方はぁぁぁ!!」

スーパースター「あああ、兵士達の視線が私に注がれる…満たされるうう!!目立つ事こそ美しい私の美学!そう、私の名前はスーパースター!!」

兵士B「もっと火を焚け!辺りを照らせ、影を無くして、あいつらの逃げ場を無くすんだ!」

スーパースター「ハッハッハー!!闇夜の中でも輝く私はなんと美しいことか!!あああ!見て!見てくれ!美しい私をもっともっと見てくれたまえー!!」

勇者「貴方本当にぶっ飛ばしますよ!?」

魔法使い「どどどどうしよう勇者様!!兵士さん達がいっぱい走ってくる!」

勇者「く…仕方ない、あそこの建物に逃げよう!!周りは兵士だらけだ…中でやり過ごす!早く!こっちへ!!」グイッ

スーパースター「服の襟を掴まないでくれたまえ、首が絞まるよ!ハーッハッハッハ ぐぇぇ」

73: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:16:52 ID:3RDPSjSY
勇者「階段の他に部屋はなし…武器庫か何かか?ここは」

魔法使い「勇者様、こうなったら上に逃げようよ!外はもうダメだから!」

スーパースター「高い場所!より目立つ!!私のステーェジィィ!!」フンガー!!

勇者「この変態を階段から突き落とせば時間を稼げる気がするな」

スーパースター「おおう、何やら殺気を感じる。今日1日で私の寿命が儚くも美しく縮んだよ!!」

魔法使い「あ…階段を昇った先に、扉が!部屋かな?な、中に入ろう!」

ガチャッ

勇者「…っ、部屋ではないな……どうやら屋上に続く扉だったようだ…」

魔法使い「風が強い…隠れる場所がないよ、そんなあ、折角牢屋から出られたのに、また捕まっちゃうのかな…?」

スーパースター「この向かい風…美しい私の美しい髪を美しく靡かせる!!ポージングのしがいがあるねえ~ハッハッハ!!」

74: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:17:41 ID:3RDPSjSY
勇者「落ちろ!塔から落ちてしまえ、この変態!!」ゲシゲシ

スーパースター「ハッハッハ、ポージングの邪魔をしないでくれたまえ、お嬢さん!」

魔法使い「勇者様!こっちに何か変なものがあるよ?大きな籠に何かついている……」

魔法使い「これ…もしかして、気球かな……?本物を見るのは初めてだ」

勇者「気球?」

スーパースター「空を飛ぶ乗り物さ!砂漠の国は有事の際に気球を使うからねえ、これを使えばここから脱出できるぞ」

魔法使い「で、でも、動かし方がわからないよ?」

スーパースター「なあに、私に任せたまえ!気球の運転くらい容易い事だ!少年、君の魔法で火を出してくれるかい、熱気で気球を膨らませるのだよ」

勇者「冤罪から始まったのに、脱獄と今度は強奪ですか!?どんどん罪が重なっていく…!」

兵士C「こっちだ!逃がすな、追い詰めろ!!」

75: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:18:28 ID:3RDPSjSY
魔法使い「勇者様ー!早く籠に入って!気球が飛んじゃう!」

勇者「あああ…!国王様と仲間達になんと詫びればいいのか…!!」

バターン!!

兵士D「ここか!!…む、いない…?」

兵士E「空を見ろ!気球だ!気球をひとつ盗まれた!!」

兵士F「弓矢を持ってこい!気球を落とせー!!」

スーパースター「ハーッハッハッハー!!気球は美しい私達が華麗に頂いたよ!さらばだ、兵士諸君!!ハーッハッハッハー!!」

魔法使い「うわあー、もうすっかりこっちが悪役だ…」

勇者「うう…何故こんな事にー!」

魔法使い「それにしても気球ってすごいなー、みるみる地上から離れていくや。鳥になったみたいだ!」

スーパースター「ハッハッハ、いい眺めだろう?みんなの注目を集めもできる、最高だね!だから私は気球が好きなんだ、運転も勉強したのさあ!」

勇者「これから一体どうなるんだろう…武器や荷物も宿屋に置きっぱなしだし…」

76: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:19:14 ID:3RDPSjSY
スーパースター「ははん、荷物はさておき、武器などは新たに買い直せばいいじゃないか」

勇者「ですが、国王様から頂いた剣もあるんです。それを置いて行くわけにはいきません…」

魔法使い「僕も、杖とかのちゃんとした媒介がないと困るな…媒介がないと、攻撃となる強力な魔法は使えないし」

スーパースター「ふうむ。では取り返しに行けばいいじゃないか!」

勇者「はい?」

スーパースター「罪人である私達の荷物は、兵士達が回収しているだろう。私も荷物を取り返したいしね。逃げ出した直後に再び戻ってくるなどとは、なかなか思われまい。取り返すなら今のうちだ」

魔法使い「う、上手くいくかなあ?」

スーパースター「ハッハッハ、私に任せたまえ!どれ、あの森の傍に一旦気球を降ろすとしよう。君達はそこで待っていたまえ」

77: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:20:06 ID:3RDPSjSY
~貿易大国付近・森~

魔法使い「スターさん、本当に大丈夫かなあ…?」

勇者「わからない…だが彼の言う通り、朝になっても戻らなかったら、この森を出よう。砂漠の国からそう離れてはいないし、追っ手が来る可能性もあるからな」

勇者「魔法使い、こっちへおいで。焚き火はあっても夜は冷える、風邪をひいたら大変だ。くっついていた方が暖かい」

魔法使い「え、で、でも」モジモジ

勇者「…私も寒いんだよ。だから暖めてほしいんだ。ね?お願いするよ。さあ、おいで」

魔法使い「……うん、わかった」ギュッ

勇者「ふふ、いい子だ。ありがとう、魔法使い」ギュ

魔法使い「なんだか誤魔化された気がするけど…、…勇者様、あったかい…」

勇者「まあ、こうでも言わなければ来てくれなかったろうからね」

魔法使い「あー、やっぱり!…でもいいや、もう……眠くなってきちゃったし…」

勇者「よしよし…寝ていいよ、おやすみ、魔法使い」

78: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:20:48 ID:3RDPSjSY
チュン チュン

勇者「……ん…、ふあぁ……もう朝か、いつの間にか寝てしまった…」

スーパースター「やあやあ!おはよう、2人共!!美しい朝だね、ハーッハッハッハー!!」

勇者「ぎゃああああ!?」

魔法使い「…んー…?……あ、スターさん…帰って来れたんだ、…ふわわあぁ……むにゃむにゃ…」

勇者「寝起きにビックリさせないでください!無事で良かったけれど……」

スーパースター「ハッハッハ!寝惚けてはいけないよ!さあ受け取りたまえ、君達の荷物だ!」ドサドサ

勇者「えっ。…ほ、本当に取り返してきたんですね」

スーパースター「当たり前だろう!?私を誰だと思っている、みんなの救世主にしてアイドル、スーパースターだよ!」

勇者「いえ、貴方は変態です。…ですが、ありがとうございます。ああ…良かった、国王様から頂いた剣も無事だ…」

スーパースター「ハッハッハ!もっと私を賞賛したまえ、ハーッハッハッハ!!」

79: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:21:30 ID:3RDPSjSY
魔法使い「僕の杖もある、…お金もそのままだ!良かったね、勇者様!ありがとうスターさん、荷物持ってきてくれて。意外とすごいんだね」

スーパースター「ハッハッハッハッハッハー!!もっと褒めて!褒めて!!テンションが上がるねえ、ハーッハッハッハ!!」

勇者「それにしても…これからどうしたものか。砂漠の国には戻れないだろうし、ここがどこだかもわからないし…」

魔法使い「気球に乗っていた時、向こうの方に街灯りが見えたよ?」

スーパースター「ああ、多分この辺りは貿易大国領だろうねえ。他国との交流を積極的に行っている金持ち大国だ。近辺には世界一の劇場やカジノを持つ街もあるのだよ?」

勇者「……そういった所なら、人の出入りも多そうだし、身を隠すにはうってつけかもしれないな」

魔法使い「カジノかあー、なんだか楽しそう!行ってみたいなー」

スーパースター「私は劇場に行きたいねえ、是非とも!」

80: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:22:10 ID:3RDPSjSY
勇者「寄り道をするつもりはないが、一時的にその街へ隠れるとしようか…」

魔法使い「でも、大丈夫かなあ?見つからないかな?」

スーパースター「ハッハッハ!安心したまえ君達!私はメイクテクにも長けているのだ!変装をすれば見つかる可能性もグッと下がるだろう!」

魔法使い「え、お化粧?男がお化粧するなんて変じゃない?スターさんは最初からゴテゴテにお化粧しているけど…」

スーパースター「つまり私が変だと言いたいのかね、無垢な少年くんんん!!化粧での美しさは老若男女等しく与えられるものだよ!まあ私は群を抜いて美しいのだが、ハッハッハ!」

勇者「成程…貴方の荷物とはメイク道具だったんですね。…まあ…こんな状況だ、変装していて悪い事はないだろう…では、お願いできますか」

スーパースター「任せたまえー!!君達をより美しく輝かせてみせるよ!!」

勇者「輝いたら見つかるんですよ!地味でいいです!!」

81: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/14(火) 18:22:52 ID:3RDPSjSY
スーパースター「……よし!これで終わりだ、どうだい私のメイクテクは!素晴らしいだろう!?鏡で確認してごらん!」

戦士(勇者)「た、確かに……私より化粧が上手いなんて、少しショックだ…」

旅芸人(魔法使い)「わあ、なんか別人みたい!本当にすごいや」

スーパースター「あとは街で防具や服を変え、名前も別のものにすればいいだろうね!うーん、そうだなあ、戦士さんと旅芸人くん、とか」

戦士「私はとくに思いつかないし、それでいいです」

旅芸人「スターさんは?更にお化粧するの?」

スーパースター「私かい?そうだねぇ~より美しくなる研究にもなるし、新たな方向性のメイクをひとつ……」

戦士「…それよりも、化粧を落とすだけでいいんじゃないですか?そう厚化粧なら、落とすだけでバレなくなる気がしますよ」

スーパースター「ハッハッハ!お断りだよ!私のアイデンティティが無くなってしまうからね!」

82: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:48:11 ID:g/BHLcaw
ガシッ!!

スーパースター「おおう!?なんだね、お嬢さん…いきなり私を羽交い締めして、ハ…ハッハッハ……美しくも嫌な予感がするよ…」

戦士「魔法使い、やっちゃいなさい」

旅芸人「今の僕は旅芸人だよ、勇者様!じゃなくて、戦士様!……ふっふっふー、覚悟してね、スターさん!!」

スーパースター「ああ、なんという事だ…天使のような悪魔の笑顔が!今!!まさに!!ちょっ、やめて!マジでやめて、シャレにならない!やめて!ヤンメッテー!!」 アッー!

・・・

スター「うう……スッピンを曝す事になるなんて…生き恥もいいところだ…」シクシク

戦士「でも、化粧しない方が男前じゃありませんか?」

旅芸人「うん、こっちの方が格好いいよねー。むしろなんで化粧するの?って思うくらい」

スター「美しくありたいからに決まっているじゃないかあー!こうなったらもう、悲しみの舞を踊るしか、傷ついた心を癒す術なし!」

83: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:49:13 ID:g/BHLcaw
旅芸人「スターさん、キリのいいとこで踊るのやめてね?置いてっちゃうよー」

戦士「街につくまでは、一応フードを目深に被っておこう。ついたらすぐに衣服を買って着替えだ」

戦士「………」

旅芸人「? どうしたの?勇……戦士様」

戦士「いや……元々冤罪なのに、すっかり逃亡を受け入れている自分に気づいたら、なんだかもう…」グス

旅芸人「ま、まあまあ…きっと、無実だってわかってもらえる日が来るから…それまでの辛抱だよ」

スター「ハッハッハ!ハーッハッハッハッハッハ!!」クルクル クネクネ

旅芸人「スターさーん!本当に置いてっちゃうよー!?」

戦士「……今更だけど、彼は一体なんなのだろうな。突然現れて…あまりにも濃い印象だから、こういった疑問を抱く暇がなかった」

84: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:49:58 ID:g/BHLcaw
旅芸人「ひどい怪我をしてもすぐ治っちゃうし、かなりの距離を簡単に追いかけてきたし?」

戦士「ダンスの事はあまりわからないけど、脱獄や気球の事とか……いや、いけないな…こんな、疑ってかかるなんて」

戦士「妙な事ばかりする変態だが、こうして私達を助けてくれたのも事実だ。…そもそも彼が騒ぎを起こさなければ良かったんだが」

旅芸人「勇者様、じゃなくて戦士様、すごい迷ってるね…」

戦士「……傷は、きっと回復魔法が使えるのだろう。移動距離は、彼が言うように、走ってきたのに加えて、砂馬に乗ったんだ。…今は、そう信じよう」

旅芸人「………うん」

旅芸人「(勇者様…ちょっと騙されやすいところがあるからなあ…心配だけど……誰か他に相談できる人が一緒にいたら良かったのにな。僕だけじゃ…わからないや…)」

スター「…話は終わったかね?」

85: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:50:47 ID:g/BHLcaw
戦士「わ!?は、はい。すみません、待たせてしまいましたか」

スター「ハッハッハ!気にしないでくれたまえよ、男女が仲睦まじく密談をしている、そんな間を裂く程、無粋ではないからねぇ、わた…私は、ウグッ、ヒック」グスグス

旅芸人「寂しかったなら寂しかったって言ってよ!!ごめんね、ごめんね!?泣かないでスターさん!」アタフタ

戦士「(……やっぱり、考えすぎだ。この人はただの変態だ、それ以上も以下もない…誰かを疑うなんて、私の性に合わない。うん、よそう。正体について考えるのは)」

スター「フー…すまない、ちょっと取り乱してしまったようだよ、美しく。さあ!気を取り直して、出発しようじゃないか!!」

戦士「はい。確か…カジノや劇場のある街でしたっけ。そこへ行きましょう!」

旅芸人「どんなところかなあ~、楽しみ!」

86: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:51:33 ID:g/BHLcaw
~港のバザー~

旅芸人「いいものが沢山買えて良かったねー、戦士様!」

戦士「ああ、バザーの他にも商人が沢山いたしな……こんなにも人が多く、ひしめき合っている。これならば見つからないだろう」

スター「しかし油断は禁物だよ?ほら、あれを見たまえ。あの立て看板。私達は脱獄犯として指名手配を受けているようだ、ハッハッハ!」

戦士「笑い事じゃありませんよ!誰のせいだと思っているんですか!!」

旅芸人「よ、…っほ、あ、あわわ」ガシャン

スター「おやおや、少年くん?それはジャグリング・ナイフかね」

旅芸人「うん、面白そうだから、つい買っちゃった!練習用だから、当たっても痛くないし。でも上手くできないんだ、難しいよ」

スター「どぉれ、私に貸してごらん?……はい、はい、はいぃ!」ヒョイヒョイ

旅芸人「わ!?す、すごいすごい!すごいや、スターさん!!ジャグリング上手なんだね!」

87: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:52:22 ID:g/BHLcaw
ドヨドヨ ザワザワ

住人「なんだ?大道芸か?」

旅人「ほう、こりゃあ見事だ。おひねりをやろう」チャリーン

商人「はいはい、いらっしゃい!見物のお供に、串焼きはいかがですかーっ!」

ワイワイ ガヤガヤ

戦士「あっという間に人垣ができてしまった。真面目にやれば望む注目が集まるというのも、皮肉だな」

旅芸人「集まりに乗じて商売を始める人まで出てきちゃうし…なんだかすごい騒ぎだねー」

スター「ハッハッハ!私はみんなのアイドルゥゥ!!2人とも、私はこの心地好い空間に気の済むまで浸っていくから、先に行っててくれたまえ!」

スター「さあさあ!!お次は火を吹きながらのダンスを披露しようかな!?ハーッハッハッハー!!」

戦士「……確かに、これは長くなりそうだな…まほ、じゃない、旅芸人。行こう、食事でもしようか」

旅芸人「終わったら宿屋に帰ってきてねー!」

スター「ハーッハッハッハー!!」

88: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:53:02 ID:g/BHLcaw
少女「もう!なんですの、まったく見えなくなりましたわ!!…執事!」

執事「はい。肩車を致しますので、私にお乗りください。お嬢様」

旅芸人「ねえねえ、戦士様。あの女の子、すごく綺麗だね?」

戦士「ん?…確かに…よく手入れされた髪、透けるような肌…大きくつぶらな瞳、稀に見る美少女だな…溜息が出そうだ」

少女「…あら?貴方達、先程あの大道芸人と親しく喋っていましたわね。お友達ですの?」

旅芸人「え?あ、う、うん。友達というか…知り合いというか…」

少女「まあ!それは素敵ですわ!……執事!」

執事「お嬢様は貴方達との御歓談を希望されております。宜しければ、あちらのシーフードレストランで一緒に食事などいかがですか。勿論、代金は此方が支払わせて頂きますので」

戦士「ず、随分息が合っているんだな…構いませんよ、私達もこれから食事に行こうと思っていたので」

89: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:54:01 ID:g/BHLcaw
~シーフードレストラン~

旅芸人「美味しいー!僕、こんなに美味しいもの初めて食べた!」

戦士「下味のつけ方がしっかりしているな、いくらでも食べられそうだ…魚の油をここまで生かすとは、見事だ。素晴らしい…」

少女「うふふ。この店は私のお気に入りですの。喜んで頂けて嬉しいですわ」

少女「それで?貴方達は旅をしていらっしゃるんでしたわね」

執事「今の砂漠の国から、よく此方へと来る事ができましたね。タイミングが良かったのでしょうか」

戦士「…どういう事ですか?」

執事「数日前、砂漠の国がこの国に対して、戦争を仕掛ける意思を明確に表してきましてね。現在、砂漠の国は完全に封鎖されています。砂漠の民は国に閉じ込められ、余所者は一切国に入れないといった状態です」

旅芸人「え…そんな、僕達の時は、あんなに歓迎してくれたのに」

90: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:54:53 ID:g/BHLcaw
少女「運も良かったんですのね。この国も警戒体制に入っていますわ。砂漠の国が狙うのは、ここですから。豊かな領土に豊富な資金…それ以上に、砂漠の国が欲しがる物がこの国にありますし」

少女「お城の中も、すごくピリピリしていて、息が詰まりそう。嫌になりますわ!」

執事「……お嬢様」シーッ

少女「そ、そういった感じを受けただけでしてよ。王族というのも大変ですわね、と…」

戦士「……戦争が…」

旅芸人「どうにかならないのかなあ…?今は人間同士が争っている場合じゃないのに…」

少女「…砂漠の国が欲しがるものを渡せばいいだけとわかっているはずなのに、難しく考えてばかりですから、王族達は」

執事「王には王のお考えというものがあるのですよ、お嬢様。我々が立ち入る事ではございません」

戦士「……仲間達は無事だろうか…巻き込まれていなければいいが……」

91: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/15(水) 10:55:38 ID:g/BHLcaw
少女「さ!難しい話はここまでに致しましょう?わたくし、もっと貴方達の事が知りたいですわ!もっと一緒に遊んでくださいませ!」

執事「滞在中だけで構いません。お嬢様にお付き合い頂けませんか?お嬢様は年齢の近い御友人がいらっしゃらないものですから」

少女「執事!一言余計でしてよ!」

執事「申し訳ございません。真実は時に人を傷つけるという事を失念しておりました」

少女「ムキーッ!!」

旅芸人「あははっ!いいよ、僕で良かったら友達になろ?僕も、君と友達になれたら、すごく嬉しいから!」

戦士「私もだ。国の情勢など、まだ聞きたい事もあるしな。よろしくね、少女さん」

少女「ありがとうございます!!うふふ、お友達……素敵な響きですわ!」

少女「でしたら早速、この街をご案内致しますわ!劇場やカジノだけでなく、世界一の図書館などもありますのよ?是非見て頂きたいですわ!さあ、参りましょう!」

93: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/15(水) 21:01:21 ID:rXKUctsQ
スターマジでなにもんだよwwww

95: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:16:10 ID:jPsg21D6
・・・

~カジノ~

海賊「チクショウ!またスッちまった…もう金がない…なんで勝てねーんだ、面白くねー!」

仮面男「…金なら私がくれてやろう」

海賊「……あ?」

ドジャッ!!

海賊「!! な…なんだ、この大金は…!袋にギッシリ金貨が詰まっていやがる…!」

仮面男「その金は全てお前にくれてやる。ただし、ひとつだけ私の願いを聞いてもらいたい。その金を全てコインに換えたら、あのポーカーテーブルにいる青年と対戦しろ。ただそれだけでいい…」

海賊「そ…それくらいは構わねーが…マジでいいのか、こんなに……」

仮面男「…ふふ。今度は勝てるといいな。まあ…頑張りたまえ…」

―――

海賊「おうおう!次は俺の番だ、俺と勝負しろ、クソガキ!」

盗賊「誰がクソガキだ。ふん、いいぜ。かかって来いよ、雑魚が」

―――

96: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:16:55 ID:jPsg21D6
・・・

~王立図書館~

旅芸人「すっ…ごい大きな図書館だったね!本もどれくらいあるかわからないし…全部読むとしたら何年かかるんだろう。面白かったー!」

少女「うふふ、旅芸人さんたら、目を輝かせていらっしゃいましたものね!ここは様々な文献や原本がありますから、学者様なども利用しますのよ」

戦士「絵画も沢山あったし、美術館とも呼べるな。芸術…人間が生む美の集大成、いい街だな」

執事「私達の街を褒めて頂き、恐縮です。さて…もう日が暮れて、暗くなりましたね。貴方達はどの宿屋に泊まっていらっしゃるのですか?」

戦士「ああ、街の中心にあった、一際大きな宿屋です」

少女「あら!わたくし達と同じ宿屋ですのね!嬉しいわ~。じゃあ共に帰りましょう!ねえ、夕食もご一緒にいかが?」

旅芸人「うん!一緒に食べよう?旅の話の続きも聞かせてあげるからさ!」

97: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:17:41 ID:jPsg21D6
執事「お嬢様、そう早足では転んでしまわれます。お気をつけください」

少女「もう!いちいちうるさいですわね。わかっていますわ!」

執事「お嬢様…」

戦士「…そちらも大変ですね、反抗期といいますか…私も寂しい思いをしているんですよ」

執事「はい…お嬢様の成長は大変喜ばしく、そして私の生き甲斐でありますが…その成長の早さは確かに、時折寂しく感じられますね」

戦士「ふふ……」

戦士「…ところで……貴方達は、ただの貴族といったものでは無いようですね」

執事「………」

戦士「三人…いや、五人?隠れていたり、住人に扮していたり。私が気づいていないだけで、他にもいそうですが…貴方以外の護衛が隠れている」

執事「…お見事です。流石、修練を積まれた勇者様に隠し事はできませんね」

戦士「………私達の正体も」

執事「はい。ですが、どうぞご安心ください。正体を知っているのは我々だけです」

98: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:18:31 ID:jPsg21D6
執事「勇者様、貴方がどういった理由で、そう変装していらっしゃるのかも知っています。失礼ですが、我が国の密偵に探らせましたので」

戦士「………」

執事「どうぞ、ご安心ください。我々は敵ではありません。勇者様のお力添えを願いにきたのです。ですが、勇者様の行動を妨げる事となるのならば、退かせて頂きます」

戦士「力添え?」

執事「はい。…我々は、この貿易大国、王家の人間。私は、執事ではなく従者です。そしてお嬢様は…この国の姫にございます」

執事「先程、レストランでお話した内容を覚えておられますか。…そう、今現在、我々は砂漠の国から宣戦布告を受けている。領土や資金も狙われる理由のひとつですが……かの国が特に欲するのが、"王家の鍵"…なのです」

執事「王家の鍵は、この世界に存在する4つの国家の協定、条約の証のひとつにございます」

99: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:19:46 ID:jPsg21D6
執事「我が国、貿易大国が鍵を、砂漠の国は使用場所を、聖騎士の王国が宝物庫を、大聖堂の国が使用決定権を、それぞれ有しています」

執事「勇者様、貴方の出身地である大聖堂の国の王は…素晴らしき王です。我が国王もその手腕を認めております。何故、砂漠の国の王が、相談のひとつもなく、戦争を考えるのか…私共にはわかりませんが…」

執事「なんにせよ…協定を破る事は認められない。我々の間だけの話ではなくなる、4つの国全てを巻き込む大戦争に発展してしまいます」

戦士「…王家の鍵…宝物庫……宝物庫には一体何があるのでしょうか」

執事「我々人間が魔法文明を得るきっかけになった、数々の古代兵器や魔具が納められているとの話です。古代兵器の力により、かつて緑豊かな大地であった場所は、砂漠と化したとも」

執事「砂漠の国が戦争に踏み切ってまで……きっと、宝物庫の中にある兵器や魔具が真の目的なのかもしれません」

100: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:20:49 ID:jPsg21D6
戦士「古代兵器…魔具、ですか」

執事「はい。しかし、兵器も魔具も、伝承通りであれば今はその力を失い、言ってはなんですが…ただの抜け殻なもの。そんな大海原の藁一本を掴もうとする砂漠の国は、我々が思う以上に、危機に瀕しているのでしょう」

執事「勇者様。我々は戦争など望んでいない。我らが王も、砂漠の国を説得する準備を行っております。その間だけでもどうか…王家の鍵を守って頂けないでしょうか」

執事「王家の鍵は、姫が持っているのです。勇者様がこの頼みに応じてくださいましたら、鍵をお渡しします。大聖堂の国王から使用許可も得ております、宝物庫にあるものが、勇者様の役に立つものであれば、自由に使っていいと」

執事「どうか我らを、姫を、世界をお守りください、勇者様。お願いします」

戦士「…わかりました。戦争は私も反対だ、防げる手立てがあるならば、是非お手伝いさせてください」

101: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:21:46 ID:jPsg21D6
少女「遅いですわ、執事!もう宿屋に着きましてよ?」

執事「はい。申し訳ございません、お嬢様。今すぐそちらへ参ります」

執事「……勇者様、ありがとうございます。お力添えに心から感謝致します。お礼として、貴方達の保護をお約束致します」

執事「勇者様達は現在、砂漠の国から指名手配を受けておられますね。それは恐らく、勇者様達を戦争の道具として使う為…砂漠の国の策略でしょう。罪状はなんでもいい、ただ貴方達を拘束し手駒にできればいい…」

執事「我々は標的になっております。大聖堂の国も、砂漠の国に近い。そこで、勇者様を聖騎士の王国で保護するよう、我が王からの書状を預かっております。それを持って、聖騎士の王国へ渡ってください」

戦士「ありがとうございます。必ずや王家の鍵を守り通します、そして…私も戦争を止める手立てがないか、探してきます」

102: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:22:56 ID:jPsg21D6
旅芸人「ねー、戦士様ー!まだお話終わらないのー?」

少女「わたくし、もうおなかがペコペコですわ!執事、早くいらっしゃいな!」

戦士「ああ、すまない。待たせてごめんよ、2人とも」

執事「お嬢様、お食事を終えましたら、お二人にあの話をお願い致します。僭越ながら、大体の説明は私が済ませておきましたので」

少女「え。……では、この方達が…そう、そうでしたのね……」

旅芸人「…なに?何の話?」

少女「…わたくし…やっぱり嫌ですわ……折角お友達になれましたのに、…そのお友達を危ない事に巻き込むだなんて……わたくしが行けば済む話なのに、なんで」

執事「お嬢様…お嬢様の父上、旦那様の気持ちを、どうかお察しください。旦那様は、お嬢様の事を一番に心配されているのです。それに、この方達に鍵を預けた方が、よっぽど上手く事が運ぶでしょう」

少女「……申し訳ない気持ちでいっぱいですわ…」

103: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:23:50 ID:jPsg21D6
執事「旅芸人さん。…いえ、魔法使いさん。貴方にも後で、ご説明致します」

旅芸人「!! え…僕の事、なんで知っているの!?」

戦士「大丈夫、君は不安を抱かなくていい。とにかく今は宿屋へ入ろう。体も随分冷えてしまったしな」

ギイイィィ…

少女「……あら?灯りは点いていますのに…誰もいませんわ、妙ですわね」

戦士「いや……ちゃんといるよ。受付カウンターの裏に、人が倒れている!」

旅芸人「ソファーの陰にも人が…!大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

執事「…これは……みんな、深い眠りについている…?この宿屋の従業員は、全員我ら護衛部隊で固めていた…手練れ揃いの彼らを眠らせる薬か、魔法か…いや、こんなにも強力な昏睡魔法があるのか…!?」

戦士「…執事さん、お嬢様の傍にいてください。誰か、います。この臭い…魔物に近い何かが、この宿屋にいる……」

104: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 00:24:41 ID:jPsg21D6
ギシッ… ギシッ…

旅芸人「…に…二階に誰か、いる……降りてくる…!?」

少女「怖いですわ…!」

執事「お嬢様、決して私から離れないでください。お嬢様は私がお守り致します!」

戦士「……誰だ!そこにいるのはわかっている、隠れていないで姿を見せろ!!」

ギシッ…

仮面男「………」

少女「え……人間…?人間ですわ、もしかして泊まり客の一人、とか…?」

戦士「いいえ、違います。どう繕っても隠しきれない匂い……彼は人間ではありません。友好的でもない…わざとらしく噴き出すその殺気、私達を挑発しているのか?」

仮面男「いや、挑発ではない。警戒しているだけだよ。私は戦いが苦手でね…ましてや、君が相手だなんて、命がいくつあっても足りないから。匂いも、殺気も…近づくなと警戒、警告しているだけだ。…勇者よ」

戦士「……!?何故。お前が私の事を知っている……」

105: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:11:34 ID:jPsg21D6
仮面男「答える必要はない。それにしても…やれやれ…やっと城から出てきたと思ったら、既に出会ってしまっていたとは…」

仮面男「まず先に、王家の鍵を頂くつもりだったんだがなあ…その為に、この宿屋にいる人間全てを眠らせたというのに…少し遊びすぎたよ」

執事「…貴方が護衛達全員を眠らせたのですか…!」

仮面男「仕方ない。今は鍵を諦めよう。順番が狂ってしまったが、もうひとつの目的を果たすか…」カッ!!

戦士「く!?奴の手から不気味な閃光が……」

旅芸人「うわあああああああ!!!」

戦士「!?どうした、大丈夫か!?」

旅芸人「あ、あっ……あああ…あ…!!い…痛い……痛いよ…!背中が、肩が……腕が、痛い…熱い……!!ああああーっ!!」

戦士「貴様ぁっ!!この子に何をした!!」

仮面男「それも答える必要はない。気になるなら自分の目で確かめろ…」スウッ…

少女「き…消えやがりましたわ!!?」

106: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:12:22 ID:jPsg21D6
旅芸人「あっあっ、あっ……!うああ、ああ…!!」ズキン ズキン

執事「…これは…まさか!すみません、失礼致します!!」ビリッ!

少女「ひ!…破いた服の下……背中に、肩に、首に、腕に……!!」

戦士「これは、温泉で見た古傷…いや、そんな生易しいものじゃない!色濃くはっきり浮かび上がっている、これは…!」

執事「…呪傷……呪いをかけられた痕です。これが今まさに旅芸人さんを苦しめている正体だ」

少女「この呪い……わたくし達人間が使えるものではありませんわ…もっともっと昔…人間が魔法文明を得るより昔に存在した呪いですわ!文献で見た事がありますもの!」

戦士「魔法使い!魔法使い、しっかりしてくれ!魔法使い!!」

旅芸人「うあああ……!!痛い、熱い…苦しい、…勇者様ぁ…っ!!痛いよぉ…!!」ブシィッ

戦士「ううっ!血が吹き出して…なんて酷いことを…!!あの仮面男、許せん!」

107: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:13:08 ID:jPsg21D6
少女「…落ち着いてくださいまし!追いかけるつもりですの!?無駄ですわ、貴方も見ましたでしょう!?あいつが煙のように消えてしまったのを!!」

少女「それよりも、彼の体を抑えていてください!…執事!!」

執事「はい、お嬢様。聖水でございます」サッ

戦士「な…何をする気だ?」

少女「解呪は無理ですが、傷の痛みを少し和らげるくらいはできます。やり方をお教えしますから、しっかり覚えてくださいな。また呪い効果が出たら、対処できるように」

少女「さっきも言ったように、これは遥か昔に存在した呪いですわ……効果まではわかりませんが、この苦しみ方…生命力に影響を及ぼすものですわね…」

執事「勇者様。隣の大陸、聖騎士の王国へお急ぎください。あちらには魔法文明に詳しく、研究を進める街もあります。そこならばきっと、この呪いの事もわかるはずです」

108: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:13:58 ID:jPsg21D6
戦士「わ…わかりました……だからどうか、どうかこの子を助けてください…!お願いします…!!」

少女「泣いている暇などありませんわ!しっかり手順を見て、覚えてください!!…わたくしはこの国から離れられないのです、また呪いの効果が出たら、彼を助けるのは貴方の役目ですのよ!?」

戦士「…!は…はい、すみません!…お願いします、ちゃんと覚えますから!!」

少女「よろしくお願いしますわ……では、いきますわよ」サッ サッ

戦士「………」

旅芸人「……う…うう、う……あ…」ズキン ズキン

執事「…先程まで、蠢くように脈を打っていた呪傷が……治まっていく…お見事です、お嬢様」

戦士「…助けてくれてありがとうございます…!」

少女「安心するのはまだですわ。ダメージが残っていますもの、手当てをしなければ。執事!」

執事「はい、お嬢様。回復魔法が使える者を、渾身の力をもって叩き起こしてまいります!」

109: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:14:47 ID:jPsg21D6
・・・

執事「回復魔法を施しました。今のところ、落ち着いて眠っております。少し休ませておきましょう」

戦士「良かった…ありがとうございます…」

少女「目覚めたら、彼にも呪傷の痛みを和らげる方法を教えましょう。いざという時の為にも」

少女「戦士…いえ、勇者様。申し上げましたとおり、あの呪いは古代のもの。今のわたくし達ではどうする事もできません。解呪魔法も高等レベルのため、使える者は一握り…それですらも、呪いの進行を抑える程度ですわ」

少女「古代の呪いには古代の解呪魔法か…呪いをかけた相手を倒すか…それしか、彼を救う手立てはありません」

戦士「…っ、はい…。この子を救うため、私達はこれから聖騎士の王国へ行きます。…王家の鍵は……どうしたら…」

少女「あの仮面男はどうやら王家の鍵も狙っているようですし、お渡ししますわ。勇者様が持っていれば、奴が貴方達の前に現れる可能性も出るでしょう」

110: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:15:27 ID:jPsg21D6
少女「執事」

執事「はい、お嬢様」スッ

戦士「…?短剣など、一体何を……」

ザクッ!!

戦士「な!何をなさるのです、自分で手のひらを斬って……血が!!」

少女「呪いの苦しみに比べたら、こんな傷。オナラのつっぱりにもならねーですわ!…王家の鍵とは、わたくしの体に流れる血の事。代々受け継がれた血の力が、宝物庫の扉を開けますの」

少女「だからこの国の王は、…わたくしのお父様は、躊躇い、悩み、いまいち踏み切れなかった。砂漠の国が出す条件を飲む事は、わたくしを矢面に立たせる事ですから」

少女「さあ。鍵を受け取ってください。……どうか、無事に帰ってきてください。お友達の貴方に重責を負わせて…本当に、ごめんなさい…」ギュッ

戦士「…血が、光って……私の手から、私の中に入っていく…?」ズズズ…

執事「鍵の受け渡しが完了しました。これで宝物庫を開けられるのは、勇者様、貴方です。ご武運をお祈り致します」

111: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:16:21 ID:jPsg21D6
―――

仮面男「……王家の鍵が勇者に渡ったか…」

仮面男「…本当に、上手くいかないものだ。机上の空論とでも言うのか…運命とやらが邪魔をするのか。神のなせる仕業が…!」

仮面男「………」

仮面男「…いいや、違う」

仮面男「机上…チェスボードで舞うのはお前達だ。勇者も、神も、……魔王も、全ては私の手駒のひとつにすぎん!」

仮面男「勇者の仲間は遠ざけた…鬱陶しいが、魔将の馬鹿も使うか。あいつなら仲間どもを容易く仕留めるだろうしな。…宝玉を持たぬ勇者など、とるに足らん」

仮面男「そして、弱った勇者から鍵を…いや、勇者が宝物庫の魔具を手に入れたところで、横から奪うのもいいな。フフフ……ハーッハッハッハー!!」

―――

112: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:17:08 ID:jPsg21D6
~昼過ぎ・港~

戦士「本当にもう大丈夫なのか?まだ休んでいた方が…」

旅芸人「大丈夫だってば!もう全然痛くないし、背中も見せたでしょ?傷が薄くなってたの。もうお昼過ぎているし、これ以上寝てらんないよ!」

戦士「それならいいが…でも、けっして無理はしないで。少しでもおかしいと感じたら、すぐに言うんだよ?お願いだから」

執事「勇者様。こちらが我が国の王より預かりました書簡です。これを聖騎士の王国に渡せば、貴方達を保護してくれる事でしょう。どうぞお持ちください」

少女「この船も船員も、皆全て私達の国が用意したものですわ。最近、海賊がこの辺りを彷徨いているというし、つい先程も何やら騒ぎがあったようですが、彼らなら海賊も撃退できましょう。道中、お気をつけて」

戦士「はい。ありがとうございます、王家の鍵は必ず守り通しますから、お嬢様…姫もどうかご安心ください」

113: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:17:56 ID:jPsg21D6
旅芸人「色々ありがとう、1日だけだったけど、すごく楽しかったよ!絶対戦争を止めてみせる、魔王も倒すから…また遊ぼうね!」

少女「……戦争とか…魔王とか、もうどうでもいいですわ!わたくしは、貴方達が無事なら、それでいいの!だって、だって、わたくしの初めてのお友達ですもの……」

少女「どうかどうか、無事に帰ってきてくださいませ!そしてまた遊んでください、そっちの絶対の方が嬉しいですわ!巻き込んでしまってごめんなさい…本当に…!」

戦士「泣かないでください、姫。大丈夫、私達は必ず帰ります。約束しますから。ゆびきりげんまん、致しましょう?」

少女「うん…うん……」グスッグス

執事「…そろそろ船を出す時間です。いってらっしゃいませ、勇者様、魔法使い様…どうかご無事で…」

戦士「はい!ありがとうございます、いってきます!!」

114: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/16(木) 20:18:41 ID:jPsg21D6
旅芸人「わー、僕、船に乗るのって初めて!本で読んだ事しかないものを、どんどん体験できるのはすごく楽しいや!」

戦士「………」

旅芸人「どうしたの?ゆ…戦士様、なんか難しい顔して」

戦士「……いや…何かを忘れている気がするんだが……それがなんだったか思い出せなくて」

ハーッハッハッハー…

旅芸人「!? あ、スターさん!スターさんが波止場で踊ってるよ!!」

戦士「あ、そうだ。あの変態だ、忘れていたのは」

スター「ハッハッハー!!美しい私は!今まさに美しく置いてけぼりー!!悲しみに加えて、混乱と動揺のダンスを披露するしか術はなしー!!ハーッハッハッハー!!」

旅芸人「スターさーん!ごめんなさーい、忘れてたー!!元気でねー!」

スター「ハッハッハー!美しくも華麗に戦力外通告かあーい!!?」

戦士「まあ、あの変態なら、その気があれば追いかけてくるんじゃないか…すっごい頑張って海を泳ぐとかして」

115: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/16(木) 21:58:05 ID:d.xvYUC2
スターおまえ……
盗賊たちとの合流楽しみにしてる

120: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:20:19 ID:Vl0HU86M
~海・船上~

旅芸人「………」

旅芸人「…勇者様、は……よし、船長さんと話してる…今のうちだ」

旅芸人「…っ、うう……」

ズキン ズキン…

旅芸人「あのお嬢様から習った、呪傷を抑える術式……、…痛い…、早くしなきゃ…」

旅芸人「はあ、……はあ……」

旅芸人「…僕の体、どうなっちゃったんだろう。こんな事じゃ、勇者様のお荷物になっちゃう…頑張らなきゃいけないのに、……ううっ…勇者様の、邪魔になりたくない…嫌われたくないよ」

旅芸人「…はあ、…はあ…それにしても…なんだろ、なんか気持ち悪い。これって呪いのせいじゃないよね…?呪傷は落ち着いたのに…」

船医「……そこに誰かいるのか?」

旅芸人「!? あ、は、はいっ!います!」

船医「おお、こんなところで何やってんだ、坊主。この先は機関室だ、危ねェぞ」

旅芸人「ご…ごめんなさい、ちょっと、体調悪くなっちゃって。休んでました」

121: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:21:17 ID:Vl0HU86M
船医「体調が悪い?…どれ……目眩や吐き気はするか?」

旅芸人「は、はい…なんか、すごく気持ち悪い、です…」

船医「ふむ、……あー、こりゃあ典型的な船酔いだな」

船医「ほら、この薬を飲め、よく効くぜ。あとは部屋で休んでりゃあ回復するだろう。坊主と一緒にいた姉ちゃんを呼んでくっから、おとなしくしてろよ?」

旅芸人「は、はい。ありがとうございます…」ゴクッ

旅芸人「………」

旅芸人「………あ、本当だ。ちょっと気分良くなってきたかも…」


戦士「旅芸人!大丈夫か?船酔いだって?あんなにはしゃぐからだぞ、さあ部屋へ戻ろう。立てるか?」

旅芸人「ゆ…、戦士様……うん、大丈夫。ごめんなさい。でも、薬もらったから。おじさん、ありがとうございました」

船医「いいって事よ。聖騎士の王国まで、まだまだかかるからな。ゆっくり寝ていな。お大事に」

122: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:22:09 ID:Vl0HU86M
ドガガァン!!

旅芸人「うわああぁ!!?なな、なに!?なにー!?」グラグラ

戦士「ッ何事だ!?旅芸人、君はここで待っていろ!」

旅芸人「ううん!僕も一緒に行くよ、戦士様!!」


船員A「うわああああ!!ま、魔物だー!!」

船員B「ありゃぁこの海の主だ…普段は呑気に寝ているくせに、なんで襲ってきたんだ!?」

戦士「なんだ、このでかいイカは……普通のイカの何百倍あるんだ!?」

魔物「オオオオンン!!!」

仮面男「ふふ…さあ、奴らを殺せ。船ごと沈めてもいいぞ。勇者の手さえ奪えればいいのだからな、…王家の鍵が備わる手だけを…」

旅芸人「あいつ!昨日襲ってきたやつじゃんか!あのイカ、もしかしてあいつに操られているの!?」

戦士「貴様ぁっ!!卑怯だぞ、正々堂々戦え!!」

仮面男「言っただろう、私は戦いが苦手なんだ。だからこういう卑怯な手段が得意なんだよ。フフフッ」

123: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:23:05 ID:Vl0HU86M
魔物「オオオオ!!」ビュオッ

船員C「ぎゃああっ!!」バチィ!

戦士「足の攻撃に気をつけろ!間合いが広すぎる、一撃当たるだけで骨が折れるぞ!」

旅芸人「火球魔法!!」ボッ

魔物「ウオォォオーン!!!」

旅芸人「だ、ダメだ…体がでかすぎて、僕の魔法じゃダメージがない…!」

戦士「たあぁっ!!」ザグッ!

仮面男「…ふむ、やはりネックなのは勇者だけだな…あの剣技、力、この海の主でも押さえ込めない、か。化け物女め」

仮面男「……防御倍加魔法」パアァッ

戦士「せやあぁ!!」

ガキンッ!!

戦士「な!?急に固くなったぞ…剣が通らない!」

旅芸人「あいつ!魔物の防御を魔法で高めたなー!」

仮面男「ふふ。いくら神童と謳われようとも、所詮お前はただのガキ。おとなしく呪いによって生命を削れ…私はお前の死体も持ち帰らなくてはならないのだからな」

124: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:24:00 ID:Vl0HU86M
旅芸人「子供扱いするなー!バカにしたら許さないぞー!!」

旅芸人「僕だって!!戦えるんだ、たくさん勉強したんだから!! ―― 火炎魔法ッ!!」ゴオオッ!!

魔物「ギャオオオオーッッ!!」ジュウウッ

仮面男「ほう。火球魔法や氷礫魔法などの初級呪文しか唱えられないかと思っていたら。これはこれは、素晴らしい。その成長スピードに拍手を送ろう」

仮面男「だが!その程度では、この海の主は倒せんぞ!?攻撃倍加魔法!」パアアッ

魔物「オオオン…!!」バキバキメキ

船員B「主の野郎、この船を潰す気だ!!こんな海のど真ん中に放り出されたら、みんな死んじまうぞ!?やめろぉーっ!!」

戦士「……仕方ない…。少し荒療治になるかもしれないが、目を覚ましてやるか…!」グッ

仮面男「……!?なんだ、あの剣の構えは…、……マズい!奴の剣に闘気が集中している!何か来る!!」

125: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:24:46 ID:Vl0HU86M
仮面男「攻撃を防がねば…!幻惑魔――」

戦士「遅い!喰らえ、我が奥義!! ―― たあああぁぁーッッ!!」

ドガガガァァッ!!

魔物「ギギャアアアアアア!!!」バチバチバチ!!

仮面男「くっ!?ただの剣技だけではない…闘気がまるで雷光のように輝く…!こ、これは、これは……、…なんと素晴らしい…!」

仮面男「しかし!非常にマズい、このダメージは…私がかけた魅了魔法が解けてしまう!!」

魔物「…グオオオォ…ン……」バッシャアアア

旅芸人「やったあ!!やった、勇者様!魔物が気絶しちゃったよ!?すごいすごい!やっぱり勇者様は強いやー!!」

戦士「……こら。いくらこの船に乗る者が事情を知っているとはいえ、今の私の名前は戦士だ。間違えてはいけないよ、まほ……旅芸人」

旅芸人「はーい。…でも今、戦士様も間違いかけたよね。ふふっ!」

仮面男「…おのれ……こんな技を隠していたとは…」

126: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:25:33 ID:Vl0HU86M
戦士「さあ。次はお前の番だ。空に浮かんでばかりいないで、ここに降りてこい。お前には聞きたい事も、やってもらわねばならない事も山程あるのだからな」

仮面男「フ…、女性から誘いを受けて断っては、恥をかかせてしまう。だが…生憎と私は忙しくてな。スケジュールが詰まっているんだよ、申し訳ないね」

戦士「逃げるな!!この子にかけた呪いとやらを解けッ!!」

仮面男「お断りだよ、レディ。第一、その呪いをかけたのは私じゃあない。私は呪いの力を加速させているだけだ」

仮面男「呪いは既に第三段階まで進行している。その少年の命はあと僅か。死期が訪れた時には必ず迎えに来るよ、フフフッ…ハッハッハ!!」スウゥッ

戦士「逃げるな!!待てぇぇっ!!!……くそっ…死神め……!!」

旅芸人「…僕……死んじゃうの……?そんな……」

127: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:26:22 ID:Vl0HU86M
戦士「……魔法使い…」

戦士「………」ギュッ

旅芸人「わ…、な、なに?勇者様……いきなり抱き締めないで、恥ずかしいじゃんか…」

戦士「…魔法使い……大丈夫、大丈夫だ。君は私が守る。今までずっとそうだったじゃないか」

戦士「君が寂しくなってしまった時も、悔しくなった時も、怒る時も。どんな時も私は君の傍にいるよ、私が君を守る。…だから大丈夫だ、安心して。君は絶対死なせない。……そう、君のご両親と約束したんだから…」

戦士「君のご両親は私の事も、実の娘のように可愛がってくださった。彼らとの約束は必ず守る。君の事も必ず守るよ。大丈夫…大丈夫だから……」

旅芸人「………」

旅芸人「…今の僕の名前は魔法使いじゃないでしょ、戦士様。旅芸人だよ」

旅芸人「大丈夫…ちょっとびっくりしちゃっただけ。平気だよ!僕は呪いなんかに負けないから!!」

128: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:27:04 ID:Vl0HU86M
戦士「…魔法使い」

旅芸人「ほらーまたー!そんなんじゃ船から降りたらバレちゃうよ?まだ指名手配されてるんでしょ、僕達」

旅芸人「大丈夫だってば!戦士様も、僕も強いんだからさ!ね?聖騎士の王国に行って、力を借りて、えっとそれから…とにかくどうにかして!それで、仲間と合流して!」

旅芸人「そしてみんなで魔王を倒す!!ほら、やる事いっぱいじゃん!その間に呪いなんて、どっか行っちゃうよ。大丈夫だよ!」

旅芸人「…ねえ、だから泣かないで?戦士様…僕は泣かないのに、戦士様が泣くのはおかしいでしょう?泣かないで…」

戦士「すま……すまない…わ…私も、頑張るよ……大丈夫だ…」

戦士「(こんな、小さな子に無理をさせて…我慢させて……何をやっているんだ、私は……情けない…)」

戦士「(ご両親との約束だけじゃない…魔法使い、君は私が守る。絶対にだ。私が救ってみせる!)」

129: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 01:27:50 ID:Vl0HU86M
船員B「船の破損が酷いな。修理しつつやっていくしかないが……こんな調子じゃあ、聖騎士の王国に着くのはどれくらいになるか…」

船員A「怪我人も出ている、早ぇとこ着かないとヤバいぞ」

魔物「グルルル…」ザパァッ

船員A「うわあああ!?また、海の主が出た!!」

戦士「な、もう目覚めたのか!?タフな奴だ…まだ攻撃する気か!?」

旅芸人「待って、戦士様!さっきと様子が違うよ?目つきも穏やかになっているもの」

魔物「グゥルルル……」ザバァァ

船員B「うおっ!…ぬ、主の野郎……この船を引っ張って。この方角、まさか俺達を聖騎士の王国へ連れていく気か?」

旅芸人「暴れちゃったお詫び、とか?…ありがとう、海の主さん!こっちも酷いことしてごめんね…でも、助かったよー!」

魔物「グオオォーン!!」ザザザザ

戦士「ふ……本当に、目を覚ましてくれて良かった…」

130: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/17(金) 15:57:23 ID:y5Ob448Y
スターが仮面男にしか見えなくなった

132: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:17:07 ID:Vl0HU86M
~浜辺~

戦士「海の主のおかげで比較的安全にここまで来れたな。魔物を追い払ってもくれたし…」

旅芸人「うー…ん!はあ~、やっと地面に降りられたー。船は揺れなきゃ楽しいのになあ…」

船員B「この港町から南に行けば、聖騎士の王国があるぜ。北には魔法研究を進める街があるが、途中、酷い吹雪が起きている豪雪地帯が存在する。今はそっちに行くのは諦めた方がいいな」

戦士「吹雪…確かに、この地に近づくにつれて気温が下がっていったように思う……厳しい土地でも鍛練を怠らず、世界最強となった聖騎士の王国…か」

船員B「俺達はここで船を修理して、貿易大国に帰るよ。海の主も落ち着いたようだし、帰りはより安全だろう」

旅芸人「ここまで連れてきてくれてありがとうございました!帰り道、気をつけてくださいね!」

船員B「ああ、坊主も気をつけて、旅を続けろよ。それじゃあな」

133: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:18:00 ID:Vl0HU86M
戦士「さて。ここから南…か。あの大きな塔がそれだろうか…少し距離はあるが、歩いていこう。魔法使い、船酔いはもう平気か?」

旅芸人「勇者様ったら!また名前間違えたー!……うん、僕もだけど。へへ…」

戦士「ふふ。どうしても慣れないな、やはり。変装したままでは失礼にもあたるだろう、聖騎士の王国に着いたら着替えるか」

旅芸人「そうだね!あと、船酔いはもう治ったよー。あの船にいた、お医者さんがくれた薬が効いたみたい。まだ少し残っているけど、戦士様は船酔いにならなかったの?」

戦士「ああ、私は大丈夫だったよ。人によって慣れ不慣れというものがあるのかもしれないな」

旅芸人「備えあれば憂いなし、このまま持っているね、薬」

戦士「ああ。…この辺りは魔物の数も少ないようだな、北側は魔物の気配が強かったが……、…ん?」

旅芸人「あれ、人が踞ってる。どうしたんだろ?」

134: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:18:46 ID:Vl0HU86M
賢者「うおええ……ご、ごめんねー2人共…オッサンのせいで、足止めしちゃって…」

僧侶「だ、大丈夫ですか?賢者さん…。気にしないで、今は、体調を治す事だけ考えましょう…ね?」ナデナデ

盗賊「先を急ぎたくもあるが、オッサンがこの調子じゃどうしようもねーな……この辺で野宿するか?」


旅芸人「どうしたんだろうね?あの人達。大丈夫かな…?」

戦士「様子がおかしいな。急病人だろうか…困っているようだし、気にもなる。声をかけてみようか」ザッ

盗賊「…っ?」ドクン

戦士「…そこの人、大丈夫か?顔が真っ青だ。随分と具合も悪そうだが、急病人か?」

旅芸人「オジサンどうしたの?具合悪いの?大丈夫?」

僧侶「…んっ?」ドクン

戦士「(なんだ?2人共、やたらと目を丸くして驚いたような顔をして……変装の化粧が崩れでもしたのかな…?あとで鏡を見るか)」

135: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:19:44 ID:Vl0HU86M
戦士「随分と具合が悪そうだが、急病人か?」

盗賊「…いや、病人というより、船に酔っただけでな。仕方無いから、この辺で野宿して休ませようとしていたところだ」

戦士「船酔い?そうか。なら、良い薬があるから、それを飲ませてあげるといいよ。ま…旅芸人」

旅芸人「はいっ!この薬だよ!僕もここに来るまでに、船に酔っちゃったんだけど……でも、この薬を飲んだらすぐに治ったんだ」

僧侶「あ、ありがとう~!ありがとうございます、助かります!さあ、賢者さん、お薬ですよ!」

盗賊「…すまねえな、見ず知らずの俺達なのに、親切にしてもらってよ」

戦士「なに、性分というものでね。困っている人を見かけると、手助けしてしまいたくなるんだ。いきなり声をかけて悪かったね。それでは、お大事に」

盗賊「………。あ、ああ。ありがとよ…」

136: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:20:44 ID:Vl0HU86M
旅芸人「薬が役に立って良かったー!船酔いになるのも、そう悪い事じゃないんだね。…あ、船酔いのオジサンが手を振ってる。ばいばーい、オジサン!お大事にー!」

戦士「あの様子なら、心配なさそうだな。じきに動けるようになるだろう。ありがとうな、旅芸人。彼らに薬を分けてくれて」

旅芸人「ううん、僕はもう平気だし。船酔いの辛さはよくわかるもん、あのオジサンが元気になって良かったよ」

戦士「いい子だね。ありがとう」ナデナデ

戦士「………」

戦士「…ところで、旅芸人。私の化粧、崩れていたりするかな?そうそう、鏡でも確認しようと思っていたんだった」ゴソ

旅芸人「え?ううん、全然。戦士様、船を降りる前も、お化粧直ししていたじゃない。綺麗なまんまだよ」

戦士「ありがとう。…ふむ、確かにおかしなところはないな…なら、思い過ごしだったか…」

旅芸人「???」

137: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:21:49 ID:Vl0HU86M
~聖騎士の王国~

門番1「止まれ!我が国に何用か!?」

戦士「とある事情により、この国の王に謁見願いたく参りました。勇者と魔法使いという者です。大聖堂の国、そして貿易大国、それぞれの王から書簡も預かっております。どうかお伝えください」

門番2「勇者とな?確かに、我が王より勇者が尋ねてくる旨は聞かされているが……しかし、この似顔絵と顔が全く違う…」

旅芸人「あっ!そ、それは、ごめんなさい。砂漠の国から指名手配されているから、名前変えて変装もしていて……すぐにお化粧落としますから!」

門番1「…否。必要はない。例えお前達が本物だろうと偽者だろうと、我らは訪ねてくるものを拒まぬ」

門番2「我らがしきたりにて、ふるいをかければ良し。勇者はかなりの手練れと聞く、その皮被る偽者ならば、我らには敵わず零れ落ちるだけであろう」

門番1「王と謁見願うならば、戦え!勝利こそ真実なり!戦って真を示せ!!」

138: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:23:04 ID:Vl0HU86M
旅芸人「ええ~、そんなあ……確か、スターさんが言っていたよね…人間で勇者様に勝てるのは、この国の騎士様くらいだろう、って。勇者様…大丈夫なの?」

戦士「問題ない。私は必ず勝つ。それに……なかなかわかりやすい国で安心するよ、正直言うと、謁見だなんだと堅苦しい流れは苦手なんだ…肩の力を抜いていけそうでいい…」

戦士「…委細承知。では、私はどちらと戦えばいいのだろうか。それとも両方とか?」

門番1「否。戦うは我らにあらず。我らはあくまでも門番なり、門を守る騎士なり」

門番2「戦士、旅芸人。今はその名で呼ぼう。…余所者が門をくぐりたい場合は、その意思を持つ者同士戦い、勝った方だけが入れる掟。今は入国を待つ相手がおらぬ」

門番1「対戦相手が来るまで、戦いの準備も含め、そちらの小屋で待機しておれ」

旅芸人「そ、それって、誰も来なかったら、ずーっとそこで待たなきゃいけないのかな…?」

139: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:23:50 ID:Vl0HU86M
戦士「いきなり聖騎士と戦う、というよりは、ずっといいんじゃないかな。長く待たされては敵わないが…今は腰を据えるしかない」

旅芸人「…勇者様…なんか、変」

戦士「ん?…ああ、すまない。こんな状況なのに、少し浮かれていたか。気を引き締めよう」

旅芸人「…う、うん…」

旅芸人「(……浮かれているというより…ピリピリしているというか……冷静さが無くなっているような気がするけど、…気のせいかな…)」

戦士「これが準備小屋かな。…失礼します」ガチャ

バトルマスター「入国を希望する者よ。よくぞ参られた。貴殿の勇気を私は賞賛しよう。さあ、扱い易い武器を取りたまえ」

戦士「…ふむ。剣に槍に斧……全て木製、修練用の武器といったところか。しかし打ちどころが悪ければ、怪我を負ってしまうな…」

バトルマスター「命の奪い合いが目的ではない。入国を賭けての戦いでは、一太刀入れるか、相手に負けを認めさせた者を勝者としている」

140: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:24:36 ID:Vl0HU86M
戦士「あくまでも練習試合、か。……では私は剣を選ぶ」

バトルマスター「承知。この扉の先が試合場となっているが、まだ扉は開かれぬ。次の入国希望者、対戦相手が訪れるまで、この小屋で待機しておれ。相手が来たら試合場へ案内しよう」ガチャ

旅芸人「あ、行っちゃった…。あー、なんだか大変な事になっちゃったなあ…本当に大丈夫?勇者様」

戦士「どうした?君がそんなに不安を抱くのも、珍しいな。私は大丈夫だよ。…相手がいつ来るかわからないんだ、君もゆっくりしていなさい」

戦士「…私は必ず勝つから。勝って、この国へと入る。そして……魔法使いの呪いがどんなものなのか…調べなくては…」

旅芸人「ん?何か言った?後半、よく聞こえなかったんだけど」

戦士「……いいや、何も」

ガチャッ

バトルマスター「戦士と旅芸人よ。対戦相手が現れた。試合場へ案内しよう」

141: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/17(金) 21:25:20 ID:Vl0HU86M
旅芸人「え!もう?良かったー!あんまり待たなくて済んだね!」

戦士「ああ。運が良かったな。…では、行こうか」

バトルマスター「試合場への扉を開く。貴殿の武運を祈ろう」


戦士「(!! 彼らは、さっき会った……また何やら不思議そうな顔をして、なんなんだ…?)」

旅芸人「あ、船酔いのオジサン達だ!元気になれたー?」

賢者「あれ~?そういう君は、薬をくれた少年くんじゃないの。あの時はありがとうね~、って……もしかして、入国を待つ対戦者って…君達なの?」

戦士「……奇遇、だね。君達も同じ道を目指していたのか。けれど、ごめんな。私達も、どうしてもこの国に入りたいんだ。手加減はしないよ」

盗賊「…なんなんだ?お前らは……」

戦士「(こっちが聞きたい)」

バトルマスター「僭越ながら、試合には私が立ち会わせてもらう。一太刀入れるか、負けを認めさせるか。勝った者を入国対象とする!では、試合始めぃっ!」

142: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/17(金) 23:12:20 ID:n0Qa1l3Q
繋がったか(´・ω・)つ乙

144: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:15:30 ID:/xmP5KWY
ありがとうございます!

145: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:16:34 ID:/xmP5KWY
僧侶「盗賊さぁーん!頑張って、くださいー!!」

戦士「(相手の武器も剣、か……しかし、見るに我流か…もしくはあまり使いなれていないようだな)」

戦士「(だが、それをカバーする体勢は我流とはいえ、なかなか。反射神経は優れているように思える…)」

戦士「ふっ!!」シュッ!

盗賊「!?」バッ

戦士「私の剣を避けられるとは、驚いたよ。私もまだまだ修行が足りないな」

盗賊「……素早さを売りにしているもんでね、一応……」

戦士「やああっ!!」ビュン! ブンッ!

盗賊「と!うお!?危なっ!?」ガン! ガツッ!

戦士「(素早さ。素早さか、確かに。それに加えて、やはり反射神経が素晴らしい。武器が剣でなければ、彼のスピードを生かせる何か…例えば短剣であったなら、この勝負、もっとわからなくなっていたな)」

戦士「(きちんとした剣の修行をこなし、物にすれば化けるぞ、この男。それが勿体無い……じっくり手合わせしたいが…)」

146: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:17:32 ID:/xmP5KWY
戦士「(…私は、やらなければならない!!彼を倒し、この国に入らねばならない……!)」

戦士「…本当にごめん、君達もこの国に入りたいんだろうけど…私も同じなんだ。どうしても、一刻も早く…この国に入って力を借りなくてはならないんだ。あの子を守らなきゃ…!」

盗賊「あの子…?あの旅芸人のガキか?」

戦士「そうだよ。本来、一人の人間にこだわる事は、私にとって良くない事かもしれない。それでも、私はあの子を守りたいんだ。その為なら、この力の全てを注ぐ!!」グッ

戦士「(この奥義…人に向けて打つのは初めてだ。どこまで闘気を抑えられるか、……いや、迷っている暇もない!!)」

戦士「たあああぁぁーッッ!!」ドカァァッッ!!

僧侶「きゃああああ!!と、盗賊さんっ!!」

盗賊「ぐ……は、ァッ…!」ドサッ

バトルマスター「…そこまで!勝者は戦士と致す!行動を共にする旅芸人も含め、入国を許可しよう!!」

147: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:18:32 ID:/xmP5KWY
旅芸人「戦士様!戦士様が勝ったー!!」

僧侶「盗賊さん!盗賊さん!!大丈夫ですか!?盗賊さんっ!」

賢者「ダメだよ、お嬢ちゃん!動かしちゃ!…回復魔法!」パアァァ

戦士「(…良かった。回復魔法を使える者が一緒なら大丈夫だな。…でも、やっぱり…この技は人間相手に使うものじゃない。申し訳ない事をした)」

戦士「…形だけのものだったが…それでも剣に生きる者へ対する礼儀として、本気で打った。しばらく痺れが続くだろう、ごめんね。彼が起きたら、私が謝っていたと伝えてくれると嬉しいな」

旅芸人「本当は雷みたいのがビリビリもするもんね、やっぱり戦士様は強いや。さあっ聖騎士の王国に入ろう!オジサン達、ばいば~い!」

盗賊「……ま……待ちやがれ、………痛っつぅ…!!」

バトルマスター「この扉の向こうが聖騎士の王国だ。さあ、潜るがいい」ギィィ

―― バタン…

148: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:19:19 ID:/xmP5KWY
~聖騎士の王国・城下町~

旅芸人「ここが聖騎士の王国……なんだか、すごい。みんな強そうだなあ…」

戦士「ビリビリと肌に伝わる緊張感、武者震いともいうのか…体が震えてくる。…ここで、魔法使いの呪いの事も……」

戦士「…と、そうだ。やっとここまで来れたんだ、王に謁見する前に、この変装を解こう。宿屋を探して、着替えてから城へ向かうか」

スーパースター「宿屋ならば、あの通りの並びに良さそうなのが一軒あったよ?」

戦士「はい、ではそこで………せいやぁ!!」ビュンッ!

スーパースター「ハッハッハ!!危ないではないか、いきなり真剣を振っては!」グニャリ

旅芸人「後ろに仰け反って避けた!ってスターさん!!なんでここに!」

スーパースター「ハッハッハー!置いて行かれて悲しかったよ、私は!!だから頑張ってめっちゃ泳いだら追いついた」

旅芸人「そんな距離じゃなかったでしょう!?そろそろ来そうとは思っていたけど…」

149: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:20:18 ID:/xmP5KWY
スーパースター「ハッハッハ!!美しい私に不可能はなーい!まあ実際は、丁度すぐ出港する船があったのでね、それに密航する形でここまで来たのだよ」

戦士「密航って。……それにしたって、時間が…貴方もあの入国審査試合を受けたのですか?」

スーパースター「試合?なんの事だい?美しい私は美しく頑張ってあそこの塀をよじ登って入ったよ!」

旅芸人「あの、家よりももっともっと高い塀を!?頑張ったってレベルじゃないよ!しかもそれって密入国じゃない!!」

兵士1「見つけたぞ、貴様!!勝手に我が国へ進入しおって!」

兵士2「掟を破る者は、この国へ入る資格なし!追い出してやる!!」

スーパースター「ハーッハッハッハー!!どうやら美しい私のファンが追いかけて来たようだ!スキャンダルはごめんだからねえ、私は美しく身を隠そう!さらばだ!ハーッハッハッハー!!」

戦士「…歩く犯罪者め…」

150: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:21:07 ID:/xmP5KWY
~宿屋~

勇者(戦士)「ふう……さっぱりしたな」

魔法使い(旅芸人)「僕もー!お化粧落とせて良かったよー、顔がムズムズして仕方なかったもん。だから本当に、落とせてホッとしたよ…あー、疲れたあー」

勇者「今日ばかりは休んでおいた方がいいかな…先に進みたいが、無理をしてもしょうがない。怪我を増やしてもいけないし…」

勇者「…休みながら、今後の事について考え、整理しよう」

魔法使い「お城へ行って、お手紙渡して…でも、お城に入るのも、なんだか大変そうだよね」

勇者「ああ。入国ですら、あの調子だったからな。試練はまだまだあるように思える。騎士達とも戦う事になるか…気合いを入れ直さねば」

魔法使い「スターさんは大丈夫かなあ?ちゃんと逃げられたかな」

勇者「奴ならば軽々逃げるかもしれんが…流石にここまでくると、怪しいというか不気味だな……」

151: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:21:54 ID:/xmP5KWY
魔法使い「………」ジー

勇者「………?どうした?そんなに見つめてきて、私の顔に何かついているか?」

魔法使い「…うん。眉間に皺が」ナデナデ

魔法使い「ねえ、勇者様……なんか勇者様、やっぱり変だよ。さっきの入国試合の時もそうだったけどさ。あのお兄さんに、すっごい技ぶつけたりとか」

魔法使い「確かにあれですぐに勝てたけど、あの技使わなくても、勇者様なら勝てたんじゃない?なんだろ…なんか、なんかいつもの勇者様じゃない気がして」

勇者「………」

魔法使い「…僕の事なら、そんなに気にしなくていいんだよ?呪いだって大丈夫なんだから、今は全然、落ち着いているんだしさ」

魔法使い「だから、その…うんと……上手く言えないんだけど…」

勇者「……いや…ごめんな、私が悪かった。確かに、私は焦っている…気が急いて、また冷静さを失っていたな……」

152: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:22:38 ID:/xmP5KWY
勇者「君に隠し事はできないね。言われて気づく事がたくさんある。心配かけてごめん」

魔法使い「…ううん。僕は平気だよ。でも、落ち着いてね、勇者様。いつも僕に言ってるじゃん!そんなに急ぐと転ぶよ、って。僕も勇者様には転んでほしくないから…」

勇者「…ふふ。これは一本取られたな。そうだね…頭を冷やさなきゃな。うん、今日はしっかり休む日だ。リフレッシュして、明日に備えるぞ」

魔法使い「うんっ!わかったよ、勇者様!」

勇者「風呂に入って汗を流そう。それからご飯だ。……魔法使い、お風呂は…」

魔法使い「一人で入ってね!!」

勇者「……寂しい…」グスン

魔法使い「この服も着替えちゃおう。僕はやっぱり法衣の方がいいや、着慣れているし…」ゴソゴソ

勇者「………!!魔法使い、それは…」

魔法使い「え?……うわっ!?な、なに、これ……腕に変な模様が…」

153: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:23:30 ID:/xmP5KWY
勇者「腕だけじゃない、背中にも首にも……全身に、刺青のようなものが広がっているぞ…」

勇者「これは、呪いが進行したという事なのか…?い、痛みは?何か体がおかしくなったりはしていないか?」

魔法使い「ううん、ちっとも……だけど、やだなあ、気持ち悪いよ…びっしり呪言みたいに浮かび上がってるんだもの」

勇者「………!」

魔法使い「…勇者様!ダメだよ、深呼吸して?大丈夫だから、僕は大丈夫だから…」

魔法使い「痛くはないけど、一応、呪傷を抑える術式を施すね…勇者様、手伝ってくれる?背中とかさ」

勇者「……あ、ああ…」

勇者「(…海で、あの仮面男と接触したからか…?呪いを加速させている、と言ったな……呪いをかけた相手は別、だとも…。くそ、必ずあいつを捕まえ、正体を聞かないと……!)」

154: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 13:24:11 ID:/xmP5KWY
―――

仮面男「………」スウウ…

魔将「……何をしに来た」

仮面男「そんなに邪険にするなよ。私達は仲間じゃあないか」

魔将「仲間?笑わせるな。魔王様に仕えているとはいえ、我は貴様を仲間と思った事はないわ」

仮面男「やれやれ…私も大概嫌われ者だな。魔竜にもだし、魔獣は魔王様にベッタリ……まあ、ベッタリと言ったら君もだけどな。聖騎士の事しか頭に無いんだからね」

魔将「何が言いたい」

仮面男「武人というのは皆そうなのか?一度惚れ込むと、どこまでも拘ってライバル視。…ふふ、まあいい。別に、雑談をしに来たんじゃない、報告だ」

仮面男「君の大好きな聖騎士……転生した者だが、奴がこの土地に来たぞ」

魔将「それはまことか!?」ガタッ

仮面男「ああ。いずれここに来るだろう。私に感謝しろよ、ここに来るよう導くのは苦労した」

魔将「…ふん。我は貴様に頼んだ覚えはない。故に感謝する義理もないわ」

155: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:15:05 ID:/xmP5KWY
仮面男「相変わらず素直じゃないな、お前は」

魔将「…影でコソコソ動き、けっして本音を出さぬ貴様に、素直だなんだと説かれる日が来るとは思わなかったぞ」

魔将「魔竜の奴が貴様をなんと呼んでいるか知っているか?…キツネだ。フハハ、貴様にぴったりではないか!!策略巡らせ、運命に干渉するだのと寝言をほざく貴様には、似合いの渾名よ」

仮面男「ハハ、どう呼ばれようと関係ないさ。私に名など必要ない。私の持つ姿は様々だからねえ」

仮面男「それより、その赤の宝玉をしっかり守れよ?聖騎士聖騎士と頭をいっぱいにしてないでさ」

魔将「貴様に言われなくとも…貴様こそ、青の宝玉はどうした。本来、お前が守るはずのものであろう。……なのに、何故。魔竜が持っていた、白の宝玉を貴様が…」

仮面男「……お前が気にする事じゃない。私はそろそろ行くから、後は頑張りたまえ」スウウ…

魔将「………」

―――

156: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:16:18 ID:/xmP5KWY
~翌朝~

バトルマスター「よくぞ参られた。勇者、そして魔法使いよ。貴殿らの願いは、我が王との謁見、助力であったな」

バトルマスター「しかし、我が王……聖王には、そう容易く会えると思うなかれ。我らは聖王に仕える者なり、我らは掟を守る者なり。力無き者が、聖王の姿を見る事は許されぬ」

バトルマスター「これより、5人の騎士との試合を行う。彼らに勝ち、その強さ示した時こそ、聖王の間に続く扉を開こう」

勇者「……委細承知。私の武器は剣のままで、いいのでしょうか?」

バトルマスター「扱いやすいもので良い。ただし真剣は禁止とする。勿論、此方も貴殿と同じく模造品を使う」

魔法使い「…王様に会うのも、やっぱり大変なんだなあ…僕も剣の練習しとくんだった…戦えたら、勇者様の負担を減らせたのに」

バトルマスター「試合では魔法の使用も禁ず。あくまで己が肉体を力に、武器にすべし。それが掟だ…」

157: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:17:06 ID:/xmP5KWY
バトルマスター「試合は1日一回。何度挑戦しても構わぬ。ただし、入国試合とは違い、今回は相手に負けを認めさせる事だけを勝利とする」

バトルマスター「では、第一の騎士よ!試合場に!!」

魔法使い「勇者様、頑張ってね!怪我しないように気をつけて!」

勇者「…ああ。…世界最強の戦士……聖騎士達…手合わせ願う!!」

バトルマスター「―― 試合、始めぃッ!!」

・・・

?「……勇者、か……」

?「…剣技の冴え、身のこなし、ふむ……やはり強いな…!なかなかのものだ。最近、騎士達の気の弛みが気になっていたが、これは良い刺激になる……」

?「…剣技もそうだが…なにより、美しい顔立ち…そう、あれは戦の女神だな…。……気に入った!」

?「誰か!誰か居るか!俺の武器を持て!…俺も試合場に降りる!!」

・・・

158: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:17:58 ID:/xmP5KWY
ガツッ!!

騎士「ぐあッ!!…ま、参った…!!」

バトルマスター「そこまで!勇者の勝ち!!」

勇者「……ふうっ…手合わせありがとうございました」

魔法使い「やったー!一人目クリア!!やっぱり勇者様は強いよー、これなら5人抜きなんてすぐだね!」

勇者「いや、慢心するつもりはない。一太刀も気の抜けない試合だった…やはり、強いな。この国の騎士は……」

バトルマスター「勇者よ、よくぞ勝ち抜いた。貴殿の勝利を祝おう。本日の試合はこれまで。次は翌日同じ時間に……」

?「待て。そう、まどろっこしい事はいらぬ。俺が直々に相手をしてやる……」

勇者「………?」

バトルマスター「な!王子!!何故、このような場へ!?」

魔法使い「え、え。お…王子様?この国の王子様?……筋肉すごー!!?」

王子「俺も一応、この国の頂点に立つ者の一人だからな。修練は絶えず積んでいる、その賜物よ」

159: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:18:45 ID:/xmP5KWY
勇者「王子ともあろうお方が……私に手ほどきをしてくださるのでしょうか?」

王子「少し違うな。…勇者、お前は聖王に会いたいと申しておるのだろう?」

王子「…聖王……俺の親父は、高齢の為に、最近は床に臥せる事の方が多い。故に俺は聖王代理として、責務に当たっている」

王子「勇者よ。お前の願い、聞いてやるぞ。5人抜きなどしなくてもいい、……俺に勝てたら、お前の望みを全て聞いてやる」

勇者「………!そ、それは本当ですか!?王子!」

バトルマスター「王子!なりませぬ、我が国の掟が……」

王子「黙れ。聖王代理の俺が良いと言っている。なんなら、新しい掟を作ってもいい。…俺の嫁候補は、俺に勝てば願いを叶えられる、そんなところでどうだ?」

バトルマスター「……はっ?」

勇者「今、なんと?」

魔法使い「……よ、よ……嫁!?勇者様が、お嫁さん候補!!?」

160: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:19:35 ID:/xmP5KWY
王子「ああ!その強さ、美しさ、俺はお前が気に入った!!だから嫁にしたい!」

王子「俺と戦え!勇者よ!お前が俺に参ったを言わせたなら、願いを聞いてやる。しかし、俺がお前に参ったを言わせたら…その時お前は俺の嫁となるのだ!!」

魔法使い「ちょっ、ちょっと待ってよ!そんなのダメだよ、勇者様が、勇者様が……お嫁に行くとか、やだー!!」

王子「何故だ?何が悪い。お前が騒ぐ理由が俺にはわからないんだが」

勇者「………私も何がなんだかわからないのですが。展開が急すぎて……なんだ?私は、話を聞かない唐突な男に好かれる運命でも持っているのか…?」

バトルマスター「……申し訳ない…王子は少々短絡的な部分がある故……口の悪い者は、王子の事を、真っ直ぐ馬鹿と呼んだりも……そんなところも慕われてはいるが…」

勇者「はい?なんです?マッスル馬鹿?……まあ、いい…時間は惜しいんだ、一人で済むというなら、有り難い話だ…」

161: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:20:22 ID:/xmP5KWY
魔法使い「だだだダメだよー!ゆ、勇者様が負けるとは思わないけど……そ、それでも、もしも負けたら……うわー!イヤだー!!」

勇者「落ち着け、魔法使い。私は大丈夫だ。例え一国の王子といえど、手を抜くつもりはない」

王子「大した自信じゃないか。既に俺に勝てる気でいるのか?ハハッ、そんなところも可愛らしいな。…俺もただ玉座でふんぞり返っているわけではない。この国がなんの国かというのを思い出せよ」

王子「バトルマスター!試合開始の合図を!」

バトルマスター「王子!ですが、勇者は本日の試合を既に終えております。王子との試合は翌日に……」

勇者「私は構わない。王子の気が変わらぬうちに、胸をお借りしたいと思うしな」

王子「だ、そうだ。さあ、合図を出せ。バトルマスター」

バトルマスター「……ぬぬ…、………で、では。これより、王子対勇者の試合…始めっ!!」

162: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:21:07 ID:/xmP5KWY
勇者「(王子の武器は……やたらでかいハンマーだな。あれを軽々肩に担ぐ筋力はすごいが…そのぶん、速さは落ちるだろう。そこを狙っていけば……)」

勇者「やあっ!!」ヒュッ!

王子「ふんっ!!」ガツン!

王子「…二回斬りつけてきたにも関わらず、一太刀にしか見えぬ技。素晴らしいな、まるでハヤブサの如き素早さだ」

勇者「見切ったのですか、私の技を。…王子、失礼ながら、私は貴方に驚かされました。成程確かに、聖騎士の王国、その王子なだけある…」

勇者「―― たああっ!!せやぁ!!」ヒュン! ブンッ!!

王子「ふっ!ふんぬっ!!」ガン! ガァン!!

バトルマスター「ふむ…今のところは、互いに様子見の打ち合いか…しかし王子の武器はハンマー。当たれば武器ごと砕かれる。勇者には少し不利かもしれぬな…神経を研ぎ澄ますのも、負担になろう」

魔法使い「勇者様ぁ!負けないで!!筋肉王子なんかやっつけちゃえー!!」

163: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:21:54 ID:/xmP5KWY
勇者「……武器の重さが枷となるかと思ったが、いやはや…お見事です、王子。その身のこなし、並大抵の修練で会得できるものじゃない」

王子「ハハッ、褒められてこんなに嬉しくなるのも久し振りだな!…なあ、勇者。お前が入国試合で見せた、あの技を打ってこいよ!!」

勇者「…そこから見ていたのですか?しかし、あれは……」

王子「人間に放つものじゃない、とでも思っているのだろう?勿体無いなあ!!加減がわからないのは、試す機会がなかっただけだ!何度もやればコツが掴めるさ!」

王子「あの技はまだまだ伸びる!技だけじゃない、お前もだ!!打ってこい!俺の事は気にするな、見ての通り、ヤワな男じゃないぞ!俺は」

勇者「……そうまで仰るのでしたら…失礼致します!!」グッ

王子「難しい事は考えるなよ!本気の本気で来いッ!!」

164: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/18(土) 21:22:37 ID:/xmP5KWY
勇者「―― でやああぁぁぁぁ!!」ドガガガッッ!!

王子「ぬおおおおぉ!!!」ガツッ!! バチバチバチ!!

魔法使い「ゆ、勇者様の奥義を…ハンマーで受け止めた!」

バトルマスター「あの闘気の放出、目を見張るものがあるな…それを力だけで抑え込む王子も流石。拮抗しあい、互いの足が地面を削る程の勢い…」

王子「ぬおうりゃあ!!」バチィッ!!

勇者「!!」

魔法使い「剣が弾かれた!!」

王子「ふー…ふー……ハハッ、アハハハハ!!楽しい、楽しいなあ、俺が見初めた女だけある!こんなに気分が昂るのも久し振りだ!!」

王子「しかし、攻められてばかりでは男が廃るというもの。次は俺の番だな!」ヌウゥッ…

バトルマスター「!! 王子!なりませぬ、その技をここで放つのは!試合場が壊れまする!!おやめください!!」

王子「その時はその時だ!ぬおおおうりゃあああぁぁ!!」

165: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:17:02 ID:nVUQmLS.
ドッグアアァンン!!!

魔法使い「うわああああ!!?」

勇者「地面が、割れ砕けて……!!もう、馬鹿力ってレベルじゃないぞ!!?」

ゴゴゴゴゴ……

王子「……ふー…おや。ハンマーが壊れちまったか。木製はダメだな、やはり」

勇者「…ぷは!!なんという豪快な技だ、避けるのが一歩遅かったら、地割れに飲まれてしまったな……」

勇者「っ魔法使い!魔法使いは大丈夫か!?」

バトルマスター「……ここに」

魔法使い「バトルマスターさんが庇ってくれたよ~…ああ、びっくりしたあ……」

勇者「良かった……。…しかし、試合場が滅茶苦茶ですね。地面だけじゃなく、壁にまで亀裂が伸びている。こんな状態じゃあ使い物にならない、遅かれ早かれ倒壊する危険性がありますよ」

王子「ハハッ!すまんすまん!!つい、興奮しすぎたな!すぐに直させよう。それまで勝負はお預けだな!」

166: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:17:49 ID:nVUQmLS.
王子「しかし楽しかったなあ。鬱憤が晴れた思いだ。……おい、勇者。お前の願いを聞いてやる、書簡だったか?それを出せ」

バトルマスター「王子!?」

勇者「え、しかし…私は王子に負けを認めさせておりませんが……宜しいのですか?」

王子「いいんだ、いいんだ。楽しかったんだから!だけど、俺はお前の事を諦めたわけじゃないぞ。試合場が直ったら、また俺と戦え!勝ってお前を嫁にするからな」

バトルマスター「おやめください、王子!!…もしも勇者が王子の嫁になったら、この国がいくつあっても足りなくなる気がしてならん…!!」

勇者「(私が王子の起爆剤になってしまうようだな…はは、確かに…これ以上興奮させたら、国どころか大陸すら沈めかねん。少し勿体無い気もするが、試合場が潰れて決着が流れたのは幸いだったか)」

魔法使い「真っ直ぐ馬鹿の王子様かあ……なんか、嵐みたいな人だなあ…」

167: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:18:40 ID:nVUQmLS.
王子「ふむ……貿易大国の王から書簡か…」バサッ

バトルマスター「王子自ら掟を破るなど、歴代の聖王様に申し訳が立たぬ…!!」

魔法使い「ああ…バトルマスターさんの胃に穴が開きそうな感じ…」

勇者「こっちとしては、有り難く良い流れだけどね…」

王子「……あいわかった。勇者、それに魔法使い。お前達の身の安全は、俺達の国が保障しよう」

王子「それから、古代兵器の詰まる宝物庫……これは王家の遺跡の事か?難しい話は苦手なんだよなあ」

王子「確か、遺跡内部や場所に詳しい者がいると聞いた事があるが…」

バトルマスター「…現・聖王様ならば御存知でありましょう。が、王子の暴君ぷりが知られては、大目玉を食らう可能性がありますぞ」

バトルマスター「他には…魔法の街にいる研究者達が、その手の知識に長けていると聞きまする」

168: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:19:26 ID:nVUQmLS.
王子「別に、親父に叱られるくらいワケないさ。…魔法使い、お前は今、敵に古代の呪いをかけられているのだったな?なら、魔法の街に力を借りよう。古代魔法にも精通しているだろうからな」

王子「俺も親父に掛け合ってくる。現在、この国と魔法の街を結ぶ街道途中は、酷い吹雪が起きているとの話だ。使いを遣って、戻ってくるまで少し時間がかかるだろう」

王子「数日か、はたまた数週間か……なるべく早く結果がわかるよう努力する。それまで、魔法使い。お前は俺達の城にいる医療部隊が預かろう」

王子「魔法の街には劣るかもしれんが、うちもなかなかの粒揃いだぞ?…だから、すまんな、もう少しだけ堪えてくれ」

魔法使い「は、はい。ありがとうございます!」

勇者「王子…そのお心遣い、かたじけなく存じます」

王子「あー、やめてくれやめてくれ。堅苦しいのも嫌いなんだ、俺は。何事もわかりやすいのが一番だ!そうだろう?」

169: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:20:10 ID:nVUQmLS.
王子「さあ!そうと決まったら早速勇者と魔法使いの部屋を用意させよう。おい、バトルマスター!俺達は魔法の街へ向かう使いの選抜だ。手伝え」

バトルマスター「はっ!かしこまりました、王子!」

魔法使い「…勇者様をお嫁になんかあげないけど、それ以外なら…いい人だよね、うん」

勇者「…そうだな。前進できて安心したよ…これで、君の呪いがどんなものか探って…仲間との合流も視野に置ける」


―――

仮面男「………」

仮面男「ふ……稀代の馬鹿王子か。ならばこの手を使うか…」

ベキッ ベリ

仮面男「私の爪から生まれし使い魔よ…その蠱惑を持って、この国を潰せ。終わらぬ悪夢を奴らに見せてやるといい…」

淫魔「………お任せください…」ズズズ…

仮面男「ガキの呪いを最終段階に移す……私は暫く動けなくなるからな、頼んだぞ。淫魔よ…」

―――

170: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:21:04 ID:nVUQmLS.
~数週間後~

勇者「でやああっ!!」ビュン! ガッ!

王子「せぇい!!おりゃあっっ!!」ブン! ブォン!!

王子「……はあっ、いやあ、やはり強いな。お前は。よし、今日の稽古はここまでにしよう」

勇者「はぁっ、はぁ、はあ……あ、ありがとう…ございました……」

勇者「(強いのは、王子の方だ…ここ連日、共に稽古をしているが…王子は滅多に息切れを起こさない。対して私はどうだ?くそ……こんな調子で、魔王を倒せるのか…)」

王子「ほら、水だ。随分汗もかいたな、風呂の支度をさせよう」

勇者「あ…ありがとうございます。……時に、王子…聖王様は、まだ首を縦には振ってくださいませんか?」

王子「ああ…俺もそろそろおかしいなあと思っていた。昔から頑固な親父だったが、ここまで意地を張るのも初めてだ。まるで人が変わったように…」

王子「何より、お前達が困っている。誰かが困っている、そんな者を見捨てる親父じゃないんだがな…」

171: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:21:52 ID:nVUQmLS.
勇者「そうですか…」

王子「うーん、すまない。やっぱり俺のせいだろうな、勝手に色々やらかしたから」

勇者「そんな!王子は大変良くしてくださっております。私達は王子の力が無かったら、今此処に立っていられなかったでしょう」

王子「ありがとよ。…ま、親父を頼れないなら、他にも手はあるんだしな。悪いニュースばかりじゃあない。稽古が終わったら話そうと思っていたんだが…」

王子「先日どういうわけか、長らく続いていた吹雪がぴたりと止んでな。そこで足止めを食らっていた使いの者達が、魔法の街に着いたと報告が来たぞ」

王子「宝物庫の事も、お前達が抱える呪いの事も、街一番の研究者に伝えたそうだ。調べるのに時間がかかるようだが、まとまり次第、この城へ連れて来る事となった」

勇者「…それは本当ですか!?」

王子「ああ。俺もホッとした、これ以上お前を城に閉じ込めていては、我慢ならず飛び出して行きそうに思えたしな!」

172: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:22:42 ID:nVUQmLS.
王子「それから、いいニュースはまだある。…勇者、お前の仲間と名乗る奴らが、魔法の街に滞在している事がわかった」

勇者「―― !!!」

王子「本物かどうかは、俺達にはわからない。だからお前自身が会って見定めてもらう事になるが…」

王子「仲間と名乗る奴らは、一人は青年、一人は少女だそうだ。魔物にやられたのか、青年はかなりの深傷を負っているようで、現在療養中との事。回復次第、この城に来るぞ」

勇者「仲間が……私達の仲間が!ついに!…ありがとうございます、王子!!良かった…やっと会えるんだ……」

王子「色々あったようだが、ほら!急がば回れってやつだろうよ、きっと。もう少しの辛抱だ。…お前が旅立ってしまうのは惜しいと思うがな」

王子「なあ、勇者。やはりまだ、俺との結婚は考えてくれないのか?」

勇者「…王子…それは何度も申し上げましたでしょう。…お戯れを…」

173: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:23:51 ID:nVUQmLS.
王子「戯れなどではない。俺は自他共に認める馬鹿だが、自分の気持ちに偽りはない。勇者、俺はお前に惚れている。真剣に考えちゃくれないか?」

勇者「お、王子……」

魔法使い「………」ジーッ

勇者「はっ!まっ魔法使い!!いつからそこに!?」

魔法使い「さっきからー。…もう、王子様!ずるいよ、約束したじゃんか!勇者様に告白する時は、僕に教えてくれるって!」

王子「ハハッ!すまんすまん!ここぞって時を逃せなくてな!機嫌を治してくれよ」

魔法使い「イーッだ!!」

勇者「何をやっているんだ、君達は…」

勇者「王子…身に余る光栄でございますが、やはり…申し訳ありません、魔王討伐という使命を果たせていない今、そういった事を考える余裕など、私にはないのです」

王子「……お前も真面目な女だなあ。そこにますます惚れるというものだが…いいさ!折れぬなら、折れるまで攻めればいい話よ!!」

174: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 01:24:44 ID:nVUQmLS.
勇者「どうか、お手柔らかにお願いしますね。王子の力で攻め立てられては、私などすぐにも潰されてしまいましょう」

魔法使い「大丈夫!!僕が勇者様の盾になるからね!…勇者様をお嫁さんにするなんて、絶対絶対ダメー!!」

王子「ハハッ、まいったな。勇者、お前をオトす前に、乗り越えなければならぬ、小さな騎士がいるようだぞ」

勇者「も、申し訳ありません、王子。失礼をば……こら、魔法使い!王子に対してなんと失礼な口の聞き方だ!」ゴン!

魔法使い「痛っ!!……うううー…イーッだ!!」

王子「気にすんなよ!恋の前では、どんな男だって騎士になれるものだからな!」

侍女「……御歓談中、失礼致します。湯浴みの支度が整いました故、ご報告申し上げます」

王子「お、ご苦労さん。勇者、魔法使い。先に入っていいぞ。俺はもう一度、親父に会ってくるからさ」

175: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:46:04 ID:nVUQmLS.
王子「しっかし…まいったな、どうやりゃ親父の機嫌が治るのか……昔は酒を飲ませれば一発だったが、流石に寝込んでいる相手に、それはなあ…」ブツブツ

ドンッ!

侍女「きゃ!?」

王子「うお、っと!?……すまん、考え事をしていて気がつかなんだ!」ガシッ

侍女「い、いえ。私こそ申し訳ありませんでした、廊下の曲がり角にも関わらず、辺りをよく見もせずに…」

侍女「王子が抱き留めてくださらなければ、床に倒れておりました。ありがとうございます」

王子「気にするな。怪我が無かったならいい。時に、親父はまだ起きているか?」

侍女「いえ、先程お世話の為に聖王様の私室に入りましたが、もうお休みになられたようです。お訪ねになるのでしたら、翌日が良いかと思います」

王子「そうか、ありがとよ。起こしてまた機嫌を損ねてもしょうがないしな、…うん、明日にするか…」

176: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:46:54 ID:nVUQmLS.
侍女「では、私はこれにて。他の仕事もありますので、失礼致します」

王子「ああ。………」

王子「…いや、暫し待て。お前…見かけぬ顔だな?新しく入った者なのか?」

侍女「………はい。先日より、この城に仕える事となりました、侍女にございます」

王子「ふうん……いや、すまんな。仕えてくれる者の顔は全て覚えているつもりだったのだが」

侍女「…いえ。私は地味な女でございますから、王子の記憶に留まらなかったのは、致し方無い話にございましょう」

王子「地味?お前がか?そんな事を言っては、世の女性達が憤慨してしまうぞ。お前は美しい顔をしている」

侍女「まあ、王子……お戯れを」

王子「……いや、本当に。美しい…不気味なまでに美しい。……そう、人が作る事の出来ない美しさだ、…お前、一体何者だ?」

177: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:47:32 ID:nVUQmLS.
侍女「………ご冗談を。こんな顔、どこにでもありますわ。ですが王子にお褒め頂いた事は大変光栄です、ありがとうございます」

王子「………」

王子「…覚えがない、と言ったが……いや、俺はお前を覚えているぞ…どこかで……確かに……」

王子「……そう、そうだ、お前はさっき、稽古場にもいた…!何故、稽古場と真逆の位置にある、親父の部屋から出てきた?どうやって移動した?お前、何者……うぐ!!?」ガシッ

侍女「……チッ。何が馬鹿王子よ、意外と聡明じゃないの」

王子「ぐ…うぐ、ぐ……!!(口を手のひらで塞がれただけなのに…女の細腕で、これだけの力を…は、外せん……手を剥がせない、何故だ!?)」メキメキ

侍女「まさかアンタにバレちゃうだなんて。勇者にばかり気を取られていたら、まったく。とんだ落とし穴だわ」

王子「(こ……呼吸、が………)」

178: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:48:16 ID:nVUQmLS.
勇者「………?」クルッ

魔法使い「どうしたの?勇者様」

勇者「……いや、なんでもない。何か妙な気配を感じた気がしたが……、…気のせいだな」

魔法使い「それにしても、お城のお風呂って本当に広いよねー!前に入った山の温泉より広いんだもん、びっくりしちゃうよ。…御付きの人達が一緒に入ってくるのも、びっくりだけど」

勇者「あれには私も困るな。落ち着かなくて。風呂くらい一人で入れるというのに」

魔法使い「僕の気持ち、少しはわかった?勇者様!」

勇者「それとこれとは話が別だ。…ほら、もう部屋に着いた。身支度を整えよう。魔法使い、まだ髪が濡れているぞ?ちゃんと拭かなきゃ、風邪をひくよ」

魔法使い「はーい。今日のご飯はなんだろな~、早く呼ばれないかなーおなかすいたよー」ガチャッ

179: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:48:55 ID:nVUQmLS.
勇者「………」クンクン

魔法使い「えーと、タオルタオル……」

勇者「(なんだ?この甘ったるい匂い……集中しないと気づけぬ、しかし噎せ返る程に充満している…実に奇妙だ)」

勇者「(集中…そう、集中してみれば……この城全体が臭い。気分が悪くなってくる、この甘い匂い…体や頭の中に入り込んでくるかのようだ)」

勇者「…魔法使い……悪いけど、そこの窓を開けてくれないか?」

魔法使い「どうしたの、勇者様。湯中りでもした?顔色悪いよ」

勇者「そう、なのかもしれないな……少し休めば落ち着くだろう」

魔法使い「大丈夫?誰か呼んでこようか?…あ、あれっ。おかしいな、鍵は開いているのに、窓がびくともしないよ」グッグッ

勇者「なんだと?………本当だ、軋みすらもしないな。どうなっているんだ、一体」ググッ

180: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:49:50 ID:nVUQmLS.
魔法使い「えいっ!!」ガツンッ

魔法使い「椅子をぶつけてもダメなんて!力が足りなかったのかな…?」

勇者「まるでこの城に閉じ込められたかのようだ…魔法使い、部屋から出よう。聖王や王子が気掛かりだ、魔物の仕業かもしれない!」ダッ

魔法使い「う、うん!……あ、待って、勇者様!廊下の向こうに兵士さんがいるよ?」

兵士「………」

魔法使い「ねえねえ兵士さん、僕達の部屋の窓が開かなくなっちゃったんだけど、他の部屋も同じなんでしょうか?」

兵士「………」

勇者「…待て、魔法使い!何か様子がおかしい!そいつから離れろ!!」

魔法使い「え?…うわ!」ガシッ

兵士「………、……」ブツブツ…

兵士「……捕まえる…連れていく……捕まえる…逃がしてはならない……」ブツブツ

181: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:50:35 ID:nVUQmLS.
魔法使い「なっ、な、なに!?どうしちゃったの!?兵士さん!」

勇者「せいっ!!」ドスッ

兵士「うぐ…!」ドサ

勇者「当て身で気絶させた。…一体どうしたんだ、本当に。何かに憑かれたような目付きで…」

兵士B「…捕まえる……連れていく…逃がさない……」

兵士C「命令……命令…命令…」

兵士D「逃がさない…捕まえる……命令…命令命令命令命令……」

魔法使い「う、わわわ……なんか怖いよ!!」

勇者「数が多い…!もしや、魅了魔法か何かか!?この甘ったるい匂いの原因はそれか?仕方ない、ここは退こう!」

兵士E「逃がさない…逃がさない逃がさない」

兵士F「命令……命令……」

魔法使い「ま、まだ来る!?みんなどうしちゃったのさ!正気に戻ってよー!!」

182: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:51:28 ID:nVUQmLS.
勇者「あちこちに兵士達が潜んでいるぞ…!捕まらないようにしないと…」ダダダダ

魔法使い「攻撃はしてこないみたいだけど、不気味でしょうがないよー!」ダダダダ

勇者「ッここは……謁見の間か、鍵は…開いている。ここに入ろう!広いから身動き取りやすいだろうしな」

―― バタンッ

勇者「………!?」

魔法使い「あ……バ、バトルマスターさん!!大丈夫ですか!?」

バトルマスター「う…ぐぐ……お前達…この城から、逃げろ……王子が…乱心を…」ガクッ

魔法使い「バトルマスターさん!!」

勇者「…大丈夫、気絶しただけのようだ。彼を昏倒させる程の…、…王子と言ったな、王子もあの兵士達のようになっているのか?」

王子「………」フラリ

魔法使い「あ…、お、王子様…!!……バトルマスターさんを攻撃したのは…王子様、なの…?」

183: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:52:29 ID:nVUQmLS.
王子「……捕まえなければならない…この国を潰さなくてはならない……」ヌウウッ

魔法使い「なに!?あの、禍々しい、大きなハンマー!!めちゃくちゃでかいよ!!」

勇者「魔神が持つかのような邪気……王子、それが貴方の武器なのですか?」

王子「ぬうりゃあああ!!」ブォッッ!!

ドゴォン!!

魔法使い「うわあああ!!」

勇者「恐ろしいのは巨大ハンマーじゃない、それを易々と振り回せる王子の力だ!!止めなければ…しかし、王子を傷つけるわけには…!!」

魔法使い「魔法も使えないよ、当たったら怪我させちゃう!どうしよう、どうしたらいいの!?勇者様!!」

勇者「王子!正気に戻ってください!!王子!!」

王子「うがああああああ!!」ブゥン! ブォン!!

184: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 14:53:14 ID:nVUQmLS.
バキィ!! ドガン!!

魔法使い「わあっ!うわああー!!も、もう、めちゃくちゃだよー!!」

勇者「くっ…致し方なし!!王子、失礼します!!」

王子「があああああ!!!」ブオッン!!

―― ガキィィン!!

勇者「ぬっ、ぐ……ぐぐ…!!」ギリギリ

勇者「この盾では防ぎきれないっ!…盾が、砕ける……!!捨てるしかない…!―― でやあぁ!!」

王子「うぐっ!?」バシィ

勇者「柄尻での当て身……いや、浅かったか、王子はまだ落ちない…」

王子「おおおおおおお!!」

魔法使い「勇者様ぁ!!危ないーっ!!」


?「……テメーら!!目を潰したくなかったら、固く閉じていろ!!」

魔法使い「―― えっ?だ、誰っ?」

?「すっごい眩しく、なりますよ!目を瞑ってください!!」ブンッ

―― ピカアァァッッ!!!

185: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/19(日) 16:49:37 ID:lsPmgEyY
盗賊・僧侶コンビ来たか!

186: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/19(日) 17:54:33 ID:mPtHUoj.
興奮するな!

190: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:42:39 ID:nVUQmLS.
勇者「……!!な、なんだ、この光は…!!」

魔法使い「うわわわ…!目を瞑っても、まだ眩しい…!」

王子「うぐわあああ!!!」

―― ドクンッ!!

魔法使い「…え?なに、今の……なんか、疼く…」ドクン

勇者「こ、これは…?…き、君達は、まさか……!?」ドクン


盗賊「…っあー、チカチカするぜ…あのクソオヤジ、なんて魔法石を渡してくれやがんだ」

僧侶「で、でもっ、でも、目を瞑らなかった、あの人には、効果てきめんですっ!しばらく、物がよく見えなくなりますよ…攻撃が、防げますよ!」

勇者「…まさか……まさか、君達が…!?」

魔法使い「入国試合の時に会ったお兄さん達!!どうしてここに?」

盗賊「…話は後にしろ!今はあのデカブツをどうにかする事だけ考えやがれ!!」

僧侶「気絶しているバトルマスターさんを、回復させますねっ…!」パアアッ

191: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:43:27 ID:nVUQmLS.
王子「うぐっ…あああ……き、貴様らあああ!!」ブン! ブンッ!!

盗賊「やたらめったらハンマー振り回しても、当たらなきゃ意味ねえんだよ。……そらっ!」ガツッ

王子「ぐわっ!!」ドサ

勇者「足を引っ掛けて転ばせた…い、今だ!王子を押さえ込む!」

侍女「…そうはさせないよ!!速度倍加魔法!!」パアアァッ

王子「っぬ!!」バシィ

勇者「うわっ!!」

盗賊「チッ。スッとろい動きが素早くなりやがった。厄介だな。…おい、そこのカーテンに隠れている奴!出てこい、ちょっかいかけんじゃねえ!!」

侍女「…そうね。ここまで来たら、もう隠れる必要もなくなったわ…」

魔法使い「あ!貴方は…お世話をしてくれた、侍女さん…!」

淫魔(侍女)「ふふ。お芝居はもう終わりよ。私は侍女なんて者じゃないわ……淫魔と呼んでちょうだい。主人の命令に従い、お前達を潰しに来たわ!」ボワン

192: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:44:17 ID:nVUQmLS.
勇者「正体を表したか、魔物め……お前がこの城の者達を、王子を惑わしたのか!」

淫魔「うふふ…女日照りの続く彼らには、少し刺激的だったかもしれないわね」

僧侶「………で……で、」

魔法使い「………?お姉さん?どうしたの?」

僧侶「で…でかああい!!?ななな、なんですか、あれ!!あのおっぱい!!でかっ!?説明不要ですよう~っ!??」

魔法使い「お、お姉さん!?」

僧侶「ちょ、見てあれ!!でか!!なんなんですか、なんなんですか、あれ!!山ですよう、山乳です!!あああ有り得ない、有り得ない!反則だー!!」

勇者「………」

盗賊「すまねえ。アイツ、バカなんだ」

淫魔「おっほほほ…ありがとう、お嬢ちゃん。どう?触ってみる?」バイーン

僧侶「え、いいんですか?それはもう、是非とも」

魔法使い「お姉さん!!?」

193: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:45:17 ID:nVUQmLS.
盗賊「おい、そこのチビスケ。クソアマの頭をひっぱたいとけ」

勇者「王子を惑わしたのは、あの魔物で間違いないだろう。ならば奴を倒せば、王子は正気に戻るかもしれない」

勇者「王子は私が引き付ける。彼のパワーを押さえられるのは、今のところ私だけだ。あの魔物は君に任せても大丈夫か?」

盗賊「さて、どうだかね。あんまり俺の力を過信するなよ?…ま、努力はするさ」

王子「うおおおおりゃあああ!!!」ブォゥンッ

勇者「目が眩んでいるおかげだな、振りが雑になっている…これなら避けられる!あとは体術で凌ぐ…!!」


淫魔「氷結魔法!!」バキン! バキン!!

盗賊「魔法を放つ速度が遅ぇよ。お前も戦闘は得意じゃねーんだろ?……俺もだ」ヒョイッ


魔法使い「えいっ」ポカ

僧侶「あ痛!?……はっ、わ、私は一体何を…!」

194: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:46:21 ID:nVUQmLS.
盗賊「らああああ!!」ビュン! ブン!!

淫魔「くっ……!なんて、速い男なのかしら…いやらしいわね……」キン! キィンッ

淫魔「―― 魅了魔法!!」フワアァァ…

盗賊「ぐっ……!?」グラァッ…

僧侶「と、盗賊さん!!」

淫魔「うふふっ、さあ、淫靡な世界に堕ちるがいいわ…!貴方も私の虜となるのよ!!」

ザシュッ!!

淫魔「………!??が、はぁっ…!な……んで、すって…わ、私の魔法が……効かない……!?げほっ!!」

盗賊「悪ィな。巨乳派から転向したんだわ、俺」ドズッ!!

淫魔「ぎゃああああああー!!!」バサアァァ

盗賊「塵になって消えやがった。……なんだ、こりゃ。生爪が落ちてやがる…気持ち悪ぃ」

勇者「でやああああ!!」ブンッ!!

王子「ぬわあああ!?」ドカッ

魔法使い「勇者様の背負い投げが決まったー!勇者様、カッコいいー!!」

195: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:47:17 ID:nVUQmLS.
王子「うう……ぐ、ぐ…」シュウウゥ

勇者「王子!王子、しっかりしてください!!正気に戻ってください、王子!!」

僧侶「ゆ…勇者様、わた私に、任せてください…!魅了魔法も、解けた今…汚染された精神を、癒しますから!……回復魔法!!」パアァァッ

王子「うぐぐ………こ…ここは……俺は、一体…?」

勇者「王子!良かった、気がつかれましたか…!!」

僧侶「お…王子も、バトルマスターさんも…少し休ませる必要があります……あまり動かさないように、してくださいね」

魔法使い「お城の人達も大丈夫かな…みんな魅了魔法や昏睡魔法を受けていたみたいだし…」

盗賊「眠っているだけの奴らは、直に目覚めるだろうが…精神汚染からの回復はどうにかしねェとな。おい、チビスケ。手伝え、城を回って様子を確認しにいくぞ」

魔法使い「ねー、チビスケって僕の事?やめてよね!僕は魔法使いだよー!!」

196: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:48:07 ID:nVUQmLS.
~数時間後~

僧侶「…ふうっ。眠りから目覚めた人達にも手伝ってもらいましたが…皆さんに、回復魔法をかけてきましたよう~」

勇者「本当にありがとう……聖王様にも、魅了魔法がかかっていたようだ…先程正気に戻られ、今はお休みになられている。いつのまに、潜り込まれていたとは…不覚」

魔法使い「王子様は魔物に気づいたみたいだけど…隙を突かれちゃったって。あの禍々しいハンマーも、呪われた品みたい……安置所に移したよ」

盗賊「過ぎた事をクヨクヨ気にしてんじゃねーよ。それより、ここに来るまで腹減ったんだが。王族サマの豪勢な飯とか出ねーのか?」

勇者「………」

勇者「……その…君達は、もしかして……神託を受けたという、仲間なのか?」

魔法使い「…お兄さん達が来てくれた瞬間、なんか、何かが疼いた気がした。…あれが、仲間の証…共鳴なの、かな…?」

197: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:48:48 ID:nVUQmLS.
盗賊「…さあな、証拠といったら何もないが……」

僧侶「でも、でも……うわああん、勇者様~!お会いしたかったですぅ…!すみません、来るのが遅くなってしまって…!!」ギュッ!!

勇者「!!?」キィィーン…!

勇者「あ…あああ………い、今!今、はっきりとわかった!!君達が、神託を受けた仲間だと…!言葉にできない、だが、わかる…伝わる……これが、これが…共鳴…!!」

勇者「そうか。やっと、やっと会えたのか…やっと……!!」ギュウッ

盗賊「……恥ずかしい奴らだな。もしかして、触れりゃ伝わるんじゃねーか?チビスケ、頭借りるぞ」グシャグシャナデ

魔法使い「わ!?ちょっと、髪がぐちゃぐちゃにな…、………!!」キィィンン!!

魔法使い「ぼ…僕にもわかったよ……今、響いた!お兄さん達が、仲間だって伝わる…」

魔法使い「そっか…そっか、そうなんだ!!もう、遅刻だよ、遅刻ー!……えへへ、僕達も気づいていなかったから、おあいこだけど…」

198: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:49:36 ID:nVUQmLS.
盗賊「……俺にも響いたぜ。心臓とか頭とか、そんなものじゃない。何かもっと別のものが震えた」

僧侶「わ、私にもありました……けど、勇者様達と、私達…やっぱり、どこかで、お会いしていたんですかねえ?さっき、魔法使いくんは、入国試合の時に会ったって言ったけど」

魔法使い「……あ、そっか。あの時はまだ、僕達は変装していたんだっけ。ほら、入国試合の時に対戦した、戦士と旅芸人だよ!あれが僕達だったんだ」

盗賊「変装~?なんでまた、そんな面倒な事をしていやがんだ…」

勇者「話せば長くなるんだが……私達は、今現在、砂漠の国に指名手配を受けているんだ」

勇者「問題に巻き込まれてしまってな。情けない話なんだが、一時期牢屋に入れられてしまい……そこにいた囚人の手助けを受けて、脱獄してきた」

勇者「冤罪とはいえ、それを挽回すべく起こした罪。更には、捕まると戦争の駒にもされてしまう」

199: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/19(日) 23:50:17 ID:nVUQmLS.
勇者「だから変装して、ここまで逃げて来たんだ。この聖騎士の王国に助力を願ってな。……ここに来たのは、もうひとつ理由があるが…」

僧侶「そんな……勇者様、そんなに苦労なされて…!」

魔法使い「でも、本当に良かったよ!合流できたんだもん、これで魔王もやっつけられるね!」

盗賊「気が早ぇよ、チビスケ。…まずはその指名手配を解除すんのが先だ。逃げ回りながらじゃ、動きづらくてしょうがないだろう」

魔法使い「だから僕はチビスケじゃないってばー!」

僧侶「勇者様は無実なんですよね?だったら、大丈夫ですよ!逃げちゃったのも、理由があるんだし……きっと、わかってもらえます…」

勇者「うん…でも、どうだろうな。私が訴えた時も、全く耳を貸してくれなかったから……よっぽどじゃないと、伝わらないと思う」

盗賊「……やれやれ。合流できても、休む暇はなさそうだな、こりゃあ」

201: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/20(月) 08:44:51 ID:3EA64oGA
今回はクソチビじゃないんだな
心境の変化か?

202: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/20(月) 08:55:46 ID:Yfax8DDM
クソチビ……妖精達
チビスケ……魔法使い
一応使い分けはしてんだな

204: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:47:56 ID:QQzhF/8c
ありがとうございます!
呼び名は警戒心とか印象とかで決定する感

205: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:48:53 ID:QQzhF/8c
僧侶「……でも…、やっぱり、なんか変ですよねえ……なんで、入国試合の時にも…思い返せば、この大陸に着いた時も私達は会っていたのに、仲間だって、気づけなかったんでしょうか…」

僧侶「……運命…これが、運命…なのかな……?」

盗賊「今はそこを気にしていてもしょうがねーだろ。指名手配の事を考えろ」

勇者「……指名手配の件に関しては、解決の糸口は見えなくもない。とにかく、今日は一旦落ち着こう…聖王様や王子が目を覚まされるのも待たねばならない、それに……君達の話も聞きたいからな」

魔法使い「…あ、バトルマスターさんだ!もう動いて大丈夫なんですか?」

バトルマスター「うむ……貴殿らには大変な迷惑をかけてしまい、申し訳ない」

バトルマスター「まだ城内も混乱している。貴殿らは部屋に戻って休んでいてくれ…食事は部屋に運ばせよう。落ち着き次第、呼びに行く」

206: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:49:36 ID:QQzhF/8c
~勇者達の部屋~

盗賊「うん、旨ぇ。流石王族サマだ、いい肉食ってんな」ガツガツムシャムシャ

魔法使い「いっぱい食べるんだねー、お兄さん…そのお肉、僕にも頂戴!」ヒョイパク

盗賊「盗賊でいい。っつか、俺の飯を横取りすんじゃねーよ、チビスケが」

魔法使い「魔法使いでいいっ!チビスケはやめてよ!!なんかやだー!」

勇者「……そうか…君達も、そんなにも苦労していたなんて…すまない、私が君達を待っていれば良かったんだ。本当にすまなかった……」

僧侶「や!やめてください、勇者様…!勇者様が、謝られる事じゃないです。こうしてお会いできたんだし……もう、いいじゃないですか。ね?」

盗賊「そうだそうだ。大体すんなり合流できていたらなあ、勇者サマ?お前もっともっと苦労していたぜ。何しろこのクソアマは、最初まったく回復魔法が使えなかったんだからな。何度肝が冷えたかわからねェ」

207: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:50:26 ID:QQzhF/8c
僧侶「も、もう!!盗賊さんっ、それは内緒にしてくださいって、言ったのに~…!」

勇者「……にわかには信じられないな…だってさっきは、あんなにもテキパキ動いていたのに」

魔法使い「うん。僧侶さんがいなかったら、今もみんな苦しんでいたかもしれないもんね!」

僧侶「え、えへへ。…レベルアップ、できましたからね……私も、回復魔法が使えるようになって、本当に良かったって…思います」

盗賊「………」モグモグ

勇者「頼もしい仲間が増えて、本当に有り難いよ。改めて、これからよろしくな。盗賊、僧侶」

僧侶「はい!よろしくお願いします…!私、頑張りますっ…!!」

魔法使い「僕も頑張るよー!!みんなで魔王を倒すんだ!」

盗賊「だから気が早ぇよ。もうちょいゆっくりさせろよな。…まあ、うん。……これからよろしくな」


盗賊 が 仲間に なった!

僧侶 が 仲間に なった!

208: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:51:11 ID:QQzhF/8c
~翌日・謁見の間~

盗賊「ふわあぁぁ……まだ眠ぃ…」

僧侶「もう、シャキッとしてくださいよう、盗賊さん…!王様の御前ですよ…!?」

魔法使い「…流石に昨日の今日じゃ、ここもぼろぼろのまんまだねー…王子様、すっごい暴れたもんなあ…」

聖王「…勇者、そして仲間達よ。本当にすまなかった、私が至らぬばかりに、御主らには迷惑をかけたな……まったく、私も歳を取ったものだ…魔物に魅了魔法をかけられていたとはな…」

勇者「勿体無い御言葉でございます。聖王が気に病まれる事ではございません、全ては我らの力が足りなかったせい…申し訳ありませんでした」

聖王「いや、私のせいだ。バカ息子の事も、すまなかったな。詫びとして、私はお前達の手助けをする事を約束しよう」

聖王「まず…呪いについては、解明に至らなかった…だが、お前達にかかる指名手配の件は、解除出来る手立てが見つかったぞ」

209: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:51:55 ID:QQzhF/8c
聖王「魔法の街より来たる、研究者よ。こちらに」

研究者「失礼致します、聖王様……、…って、なんだ。俺の話を聞きたいってのは、あんたらだったのか」

僧侶「あ!け、研究者さんじゃないですか!」

勇者「…知り合いか?」

盗賊「魔法の街で知り合ったクソメガネだ。すっとぼけちゃいるが、知識と実績は、まあ…そこそこだぜ」

研究者「えー…と、砂漠の国についてだが。今、あそこは貿易大国に対して戦争を仕掛けようとしている。何故か?理由は、砂漠の国唯一の水資源、オアシス枯渇の危険性から来るものだ」

研究者「オアシスが枯れてしまう事、イコール砂漠の国滅亡。それを避ける為の、領土拡大、戦争。勝つための駒を欲するが故の勇者拘束……表向きの流れはこんな感じだ」

研究者「まあ、簡単に言えば、根元であるオアシス、水資源をどうにかすりゃ戦争は防げるわけだ。そして、戦争を防げば勇者が狙われる事もなくなる、と」

210: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:52:47 ID:QQzhF/8c
研究者「そこで出てくるのが、王家の遺跡…この国が守る宝物庫。その中にある魔具だ」

盗賊「宝物庫」ピクッ

僧侶「…そこ、反応しないように!」

研究者「宝物庫、納められている魔具について、様々な文献をひっくり返して調べた結果…魔具のひとつに、永久に水を生み出す、神秘の水瓶というものがある事がわかった」

研究者「これは推測にすぎないが、砂漠の国が戦争を起こしてまで狙うもの。もしかしたら、この水瓶かもしれん」

研究者「誤った使い方をすれば、大陸ひとつ水に沈めてしまう、恐るべき兵器となるが…渇いた土地、砂漠の国で使えば、オアシス復活、いやそれだけでなく、かつてそうだったように緑豊かな土地へと甦るだろう」

魔法使い「…つまり…宝物庫に入って、その水瓶を持ってきて、砂漠の国に渡せばいいんだね?」

研究者「すんなりいくかはわからんが、な。なにせ太古の時代のものだ…伝承通りなら、ただの水瓶になっている可能性もある」

211: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:53:39 ID:QQzhF/8c
勇者「……貿易大国の執事も言っていたな、魔力が失われているかも、と」

勇者「しかし、今はそれしか手立てがないならば、行くしかない。これから私達は、宝物庫に向かいます。聖王…宝物庫に足を踏み入れる無礼を、どうかお許し頂きたい」

聖王「構わぬ。元より、そのつもりであった。我らは全力を持って、お前達の補佐に当たろう。勇者よ、我ら聖騎士団を率いて宝物庫に向かうが良い」

勇者「…いえ、我々だけで大丈夫です。騎士達は、この国の警備と城の修復に集中させてください」

盗賊「…おいおい……折角楽ができそうだってのに、何を言いやがんだテメーは」

勇者「これは私達の問題だ。これ以上、迷惑をかけられん。…なに、不安を感じてはいないよ。私には頼もしい仲間が三人もいるからね」

盗賊「あー…ったく!ふざけんなよな…この勇者サマはよォ」

僧侶「ふふっ。頑張りましょう、ねっ?」

魔法使い「僕も!勇者様の力になるからね!」

212: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:54:35 ID:QQzhF/8c
聖王「…では、勇者の意思を汲もう。しかし無理はするな。宝物庫…王家の遺跡周辺も、魔物が蔓延っている地帯。気をつけていくのだぞ」

勇者「はっ!ありがとうございます、聖王様!」

研究者「これは、ここの土地を描いた地図だ。宝物庫の場所に印をつけておいた、持っていけ」

研究者「伝承通り、水瓶の魔力が尽きていたら…人間の俺達では、それを復活させる事は出来ない」

研究者「魔具とは元々、エルフや神族が使っていたものという話もあったから…復活させるとしたら、そいつらの力を借りるしかないかもな」

魔法使い「エルフ…?そんな、おとぎ話に出てくるものを頼りにするってのも…」

僧侶「ううん…その点については、大丈夫…だと思うな。私達…ちょっとしたアテがあるから、ね!」

盗賊「地図を見てみたが、宝物庫ってのは、あの氷の洞窟近辺みてーだな。なら道順はわかる。面倒だが、支度したら出発すっか」

213: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:55:42 ID:QQzhF/8c
勇者「城下町で必要なものを買い揃えていこう。食糧や水も補充しないとならないしな」

王子「ま…待ってくれ!勇者…行ってしまうんだな」

勇者「…王子!?」

聖王「息子よ、まだ寝ていろと言ったではないか」

王子「挨拶したかったんだ…勇者、すまなかった。俺はまだ修行が足りなかったらしい…歴代の聖騎士達は、精神魔法など一切効かない、心の強さを持っていたってのに…あっさり操られて、情けないもんだよ」

勇者「そんな事ございません!王子、あれは仕方なかった事なのですから」

王子「ありがとよ。…だが、俺は反省したよ。こんなに弱いんなら、お前を嫁にするだのなんだの、言える資格はない…」

王子「体調が整ったら、また修行のし直しだ。本当にすまなかったな……気をつけて旅を続けろよ、勇者。そして仲間達よ。無事の帰りを願っているぜ」

214: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 14:56:27 ID:QQzhF/8c
勇者「王子……」

王子「自分で納得出来る強さになったら、改めてお前と向き合いたい。…それまでにお前が他所を向いちまったら、その時はその時だがな。…なっ?」

魔法使い「な、なんで僕を見るのさ…」テレ

王子「ハハッ!頑張れよ、若人!!」

勇者「………」


僧侶「……勇者様…、王子様に求婚されていたんですかねえ…。流石勇者様です…!」

盗賊「そんなお前はトロル野郎から求婚されたけどな」

僧侶「ひいいぃぃ!!!思い出させないで~っ!!盗賊さんのバカぁー!!」ガタガタブルブル


研究者「俺は街に帰って、引き続き研究を進める。古代兵器や魔法……意欲を刺激されたしな。気が向いたら、お前らが見聞きした事の話をしに来てくれ」

魔法使い「あ、是非!僕、魔法の街に憧れているんです!必ず行きますからっ!」

研究者「魔法を扱うならな、一度は来るべきと俺も思うぜ。待っているよ」

217: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:50:56 ID:QQzhF/8c
~氷の洞窟近辺~

僧侶「はあぁ……合流前の旅が嘘のようですう…ここまで、すんなりと来れるなんて…魔物が出ても、皆さん強いからサクサク進行できます…」ジーン

魔法使い「そんなに大変だったんだ…」

僧侶「私が戦闘に出ると、いっぱい時間が、かかっちゃったし。賢者さんが仲間に入ってくれるまで、本当に大変だったんだよ~。一匹の魔物に対して、半日かかったりして…」

魔法使い「えー、そんなにー!?僧侶さん、可哀想。お疲れ様!でももう大丈夫だね、勇者様も盗賊のお兄さんも強いから!僕だって、僧侶さんを守ってあげるからね!」

僧侶「ううっ!ありがとう~魔法使いくんー!!」

盗賊「おいテメーら、呑気にお喋りしてんじゃねーぞ。本丸に着いたんだからよ」

勇者「地図によると、この辺りなんだが…それらしき入口が見当たらないな。洞窟の中なのか?」

218: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:51:44 ID:QQzhF/8c
盗賊「この洞窟には入った事がある。くまなく…とは言えないが、探索した限りじゃあ、宝物庫入口なんて見当たらなかったな」

勇者「しかし、周囲を見渡しても、目につくものはない…やはり怪しいのは、この洞窟くらいだぞ」

盗賊「そうさな…前は、この中にあった落とし穴の先に、目当てのものがあったし…それみてェに、隠し通路があったのかもしれねー」

勇者「よし…中に入ろう。魔法使い、僧侶、聞こえたか?今からこの洞窟に入る……」

―― ピカッ!!

僧侶「きゃあ!?」

勇者「な、なんだ…!?」

魔法使い「勇者様が洞窟の壁に触れたら、その手が光ったよ!?」

ゴゴゴゴゴ…

盗賊「……!?なんだ、こりゃ…幻か?洞窟の入口に重なるように…扉が現れたぞ!!」

勇者「……貿易大国の姫から受け継いだ鍵…それが反応したのか」

219: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:52:30 ID:QQzhF/8c
僧侶「わ…私でも、わかるくらい……強い魔力反応を感じます…この入口、こうやって、魔法で隠していたんですねえ…」

魔法使い「これなら、鍵を持っている人がいないと、どうやったって見つけられないもんね。すごいなあ…昔の魔法かあ……」

盗賊「…ただの引戸って感じなのに、びくともしねェ。おい、勇者。お前が鍵とやらを持ってんだろ?開けてみろよ」グッグッ

勇者「どれ。……ん、あっさり開くじゃないか。これも鍵の力か?鍵を持つ者にしか、扉は開かれないわけか…」ゴガララ…

魔法使い「だから砂漠の国は、貿易大国のお姫様……鍵を欲しがったのかあ…場所がわかっていても、現れず開かずじゃどうしようもないもんね」

盗賊「…中は…結構奥まで続いてんな。何かの気配も伝わる。テメーら、気をつけて進めよ」

僧侶「うう…薄暗いから、ちょっと怖いです……」

220: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:53:18 ID:QQzhF/8c
~王家の遺跡・宝物庫~

幻獣「ガアアァァ!!」

勇者「せやあ!!」ザンッ

幻獣「グオオオ…!」シュウゥッ

勇者「消えた……確かに手応えはあったのに。魔物とは違うな、…宝を守る番犬、といったところか…」

僧侶「でも、でも、受けた傷はそのままです…勇者様、回復しますから、腕を出してください」

勇者「いや、これくらい。どうって事ないよ」

盗賊「……小さい傷でも、侮ると致命傷に化ける事もあんだ。回復できる時にしておけ」

勇者「…そうかな?…じゃあ、お願いするよ。僧侶」

僧侶「はい、任せてください!…回復魔法!」パアッ

魔法使い「ねえ、お兄さん。この先、道が2つに分かれているんだけど…どうしよう?」

盗賊「侵入者を迷わせる為に、わざとグチャグチャに通路を作っているって感じだな…とりあえず右に進んでみっか。壁に印をつけておいて…違ったら、ここに戻ってこよう」

221: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:54:09 ID:QQzhF/8c
魔法使い「…なんか、先がまったく見えないんだけど……間違っていたのかな?この道…」テクテク

勇者「番犬も絶えず襲ってくる、どこかで休まないと、消耗するばかりだな」

盗賊「……仕方ねー、あの曲がり角辺りで一旦休憩を取るか…壁に印、と……」

僧侶「…!?あ、あれえ?盗賊さん、もう壁に印が、ついてますよう!?」

盗賊「な!?…確かに、こりゃあ俺がつけた印だぞ…どういうこった、真っ直ぐ歩いていたのに。封印の塔みてェに、幻惑魔法でもかかっているのか…?」

勇者「……一度引き返そう、あの分かれ道まで戻るんだ。今度は左側の通路を進んでみよう」

タタタタタ…

魔法使い「戻ってきたけど……左側も、さっきと似たような作りだよね。だ、大丈夫かなあ?」

盗賊「行ってみねーとわからんな。ちょっと偵察してくる、お前らはここで休んでいろ」

魔法使い「一人じゃ危ないよ!僕も一緒に行く!」

222: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:55:07 ID:QQzhF/8c
盗賊「俺一人でいいっつーの。足手まといだ、いいから休んでいろよ、チビスケ」

魔法使い「また番犬が出たらどうするのさ?一人じゃ倒しきれないでしょう、魔法でサポートするから!僕も行くよ」

盗賊「チッ、仕方ねーな……怪我すんなよ?しても捨てていくぞ」

勇者「2人だけで大丈夫なのか?全員で進んだ方が…」

盗賊「偵察だ、先が見えるんなら、ここに戻ってくっからよ。勇者サマはそのクソアマのお守りでもしていろや。じゃあ行ってくるぜ」

僧侶「気をつけてくださいね、盗賊さん、魔法使いくん!危なくなったら、無理せずに、戻ってきてください…!」


勇者「……なんというか、口の悪い男だな、彼は。クソアマって…君の事だろう?」

僧侶「…はっ!呼ばれるのに、慣れちゃってました…!は、早く正さないと…あわわ…」

勇者「…クソアマにチビスケ……私は、勇者サマ、か…なんだか一線引かれている感じがするなあ…」

223: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:55:56 ID:QQzhF/8c
盗賊「おりゃっ!」ザクッ

幻獣「ゴガアァァッ!!」

魔法使い「お兄さん、危ない!…火球魔法!!」ゴウッ!

幻獣「ギャアアア~!!」ジュオッ

盗賊「…すまねーな、助かったぜ」

魔法使い「えっへへー。やっぱり僕がついてきて良かったでしょう?……でも、そろそろヤバいけどね…魔法を使いすぎて、疲れてきちゃった……」

盗賊「そういや、いいものを持っていたな、俺。……ほら、魔力を回復させる聖水だ。飲んでおけ」ゴソゴソ

魔法使い「え、すごーい!ありがとう!…わー、本物だ、実物は初めて見たよ!どこで手に入れたの?」

盗賊「氷の洞窟の宝箱に入っていたんだ。使う機会を逃したから、いずれ売ろうと思っていたが、そうしなくて良かったぜ」

魔法使い「んぐ……、ぷはっ。…うん、力が湧いてくる感じ……これなら、また魔法が使えるよー」ゴクゴク

盗賊「そいつは良かったな。俺が楽になる。……曲がり角に来たぞ、ここで印をつけて…」

224: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:56:41 ID:QQzhF/8c
僧侶「…あれ?おかえりなさい、2人共。早かったですね?」

盗賊「!?」

魔法使い「え?…ええっ?なんで?なんでここに戻るの?こっちも一本道だったのに!」

勇者「……やはり、幻惑魔法がかかっているのか?」

盗賊「そうなのかもしれねーな…となると、厄介だぞ。どこかに仕掛けがあるんだろうが…それを見つけない限り、先に進めねー」

僧侶「封印の塔でも、聖騎士の城に入る時も…青の宝玉が光って、幻惑を解いてくれましたが……ま、また、光らないですかねえ…?」

盗賊「……今回は反応がねェな。テメーらで片付けろって事か…あー、疲れた!!俺も休む!!」

勇者「困ったな。仕掛けといっても、それらしいものは無かったぞ?魔法の事にはあまり詳しくないから、わからない」

魔法使い「媒体がどこかにあるんだろうけどねー…部屋とかもなかったし、ずっと通路が伸びていただけだもん…」

225: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:57:30 ID:QQzhF/8c
盗賊「くそっ、腹立つなあ。おい、クソアマ。お前のメイスを貸せ」

僧侶「え?な、何をするんですか?」

盗賊「ストレス発散だ!」ブンッ!!

僧侶「ちょっとー!!?ななな、なんで投げるんですかー!!投げるなら、その辺の小石とかでいいじゃないですかあ!!」

盗賊「がっ!?」ゴンッ!!

僧侶「きゃあ!?と、盗賊さん!?」

魔法使い「え、え、なんで?前に投げたメイスが、後ろから飛んできて、お兄さんの頭に当たったよ?」

勇者「………」ポイッ

カツン!

魔法使い「あ!勇者様の投げた小石も…!」

勇者「……もしかしたら…壁か、床に仕掛けがあるのか…?」

勇者「…注意深く調べてみると、成程確かに。他の床と色が違う床板があるな。これを避けていけば、先に進めるかもしれない」

僧侶「色の違う床板…い、いっぱいありますねえ……踏まないように、って…ジグザグに歩いていかないと…」

226: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/20(月) 20:58:20 ID:QQzhF/8c
盗賊「……曲がり角のところなんか、ワープ床が一列みっちり並んでやがる。気づかない中で、これを踏まずに歩くのは無理ってもんだな」

魔法使い「せー、のっ!!」ピョンッ

魔法使い「……やったあ!戻らずに先に進めたよ!?」スタッ

勇者「…っ、と。こういう仕掛けだったのか…疲れて動けなくなる前に、気づけて良かったな」スタッ

僧侶「はう!!…痛たたた…」ベチャッ!

盗賊「何やってんだ、相変わらず鈍臭ぇ女だな…ほら、寝てないでさっさと起きろ」グイ

僧侶「はうぅ……す、すみません…鼻ぶつけたあ…」

勇者「角を曲がった先、は……なんだ、随分広い部屋だな…番犬もいないし、何もないのがまた不気味な…」

盗賊「!? 危ねぇ!後ろに下がれッ!!」

ジャキン!!

勇者「ッッ!!?……次の罠は、床から飛び出す鉄針か…!」

229: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:16:23 ID:sBLem/.c
魔法使い「あああ……危なっ!!串刺しになっちゃうじゃんか!…だから番犬がいないんだね、このフロアには…」

盗賊「針の無い床もあるな…一度飛び出したら、引っ込むまで時間がかかるようだ。慎重に進めば、どうって事ねー」

盗賊「おい、クソアマ。ちょっと突っ走って鉄針全部出して来いよ。俺達が進みやすくなる」

僧侶「慎重、どこいったんですか!盗賊さんが行ってくださいよう!」

勇者「喧嘩はやめないか、まったく。…剣先で床を叩きながら進もう、みんな、私の後に続いてくれ。横に外れないよう、気をつけて」

ジャキン! ジャキン!!

魔法使い「うわ!…もー、この飛び出す勢い、何度見ても冷や汗かいちゃうよ……」

僧侶「番犬がいなくて、本当に良かったですねえ…こ、こんな緊張する中で、攻撃されたら……考えるだけで、寿命が縮みます…」

勇者「………よし、端についた……次のフロアへ入るぞ」

230: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:17:15 ID:sBLem/.c
僧侶「こ…ここにも、番犬はいません、ね……でも、また無駄に広い…絶対何かありますよ~」

魔法使い「えいっ」ポイッ

バチバチバチ!!

魔法使い「うひゃああ…投げた小石が、電撃みたいなのに弾かれていくよ…」

盗賊「ダメージ床か……痛!痛ってぇ!!…歩けなくはねーが、体力はかなり消耗しそうだ」バチィッ!!

勇者「……ダメージ床の先に、スイッチレバーのようなものが見える。あれを倒せば、電撃を切れるのでは?」

僧侶「でも、でも、か、かなり、遠いですよ…?あそこまで行くのは、ちょっと無理ですぅ…」

盗賊「何か他に手はないか考えっか…こっちにもあのレバーが無いか探してみるとか」

勇者「やああああ!!!」ダダダダ!!

盗賊「!!?!?」

僧侶「ちょっ!?勇者様あー!?」

魔法使い「勇者様ー!?ダメージ床を無理矢理走っていったー!?」

231: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:18:01 ID:sBLem/.c
勇者「うぐぐ……!!ま、負けるものかああ!!」バチバチバチ!!

盗賊「何やってんだ、バカァァ!!」

勇者「はあっ!!はあ!はあ……、よ、よし……ダメージ床を、突破した…あとは、レバーを…倒す……」ガシャンッ

シュウウウゥゥ…

魔法使い「あ…床の色が変わった……!」

僧侶「勇者様!!勇者様ぁっ!!大丈夫ですか!?すぐに回復しますから!!」パアアッ

勇者「痛たたた……あ、ありがとう、僧侶。…はあ、癒される……君の回復魔法を当てにしていたから、こうやってできたんだよ。ありがとう」

盗賊「こ……こ………」ワナワナ

勇者「…ん?」

盗賊「この、バカ!!テメーはイノシシか何かか!?バカッタレ!!危ねーだろうが!何を勝手に突っ走ってやがんだ!!イノシシ女!!」ゴンッ!!

勇者「痛あっ!!?イ、イノシシ女…!?」

魔法使い「ゆ、勇者様にゲンコツ落とした人なんて、初めて見た…」

232: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:18:56 ID:sBLem/.c
勇者「し、しかし!!さっき君も言っていたじゃないか、僧侶に。突っ走っていけ、って……だから私は…」

盗賊「何を真顔でほざいてやがんだ!?あんなの冗談に決まってんだろうが!!バカか!お前はバカか!!無鉄砲バカか!!」ゴン! ゴン!!

勇者「痛い!!痛あ!?」

盗賊「勇気と無謀はまったく違ぇんだよ、覚えとけ!このバカイノシシ女!!…ああっ!たくよう、俺を焦らせやがって!クソが!!」

僧侶「ゆ、勇者様の前では、冗談は言えなくなりましたね……へへ、私は助かります、けど!」

勇者「ううう……無謀じゃないのに…僧侶~、頭をぶたれた痛みも回復してくれ…」グスッ

僧侶「は、はい!…回復魔法!……あ、あれ?」

勇者「………何も起きないぞ?痛いままなんだが…」

僧侶「す、すみません!わ、私、落ちこぼれで……時々、回復魔法を失敗しちゃうんですうぅ…!」

勇者「そんなあぁ~!!」

233: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:20:01 ID:sBLem/.c
盗賊「クソアマ!!そいつを甘やかすんじゃねえっ!!仕置きにならねーだろうが、バカ!」

魔法使い「僕もお兄さんと同意見ー。勇者様、今のはすっごく危なかったよ!もうあんな事はしないでよね!怒られて当然だと思うなー」

勇者「ま、魔法使い!君まで!!……ううっ、頑張ったのに…」

僧侶「よしよし、勇者様、よしよし」ナデナデ

魔法使い「…あははっ!こんな勇者様の姿も初めて見たなあ。なんだかお兄さんってより、お父さんみたい。これからお父さんって呼んでいい?」

盗賊「ふざけんな!!俺はこんなでかいガキを持った覚えはねぇッ!お前も殴るぞ、チビスケ!」

魔法使い「チビスケじゃないよ、魔法使いだってばー!!やめてくんなきゃ街中でお父さんって呼ぶよ?」

盗賊「じゃあクソガキだ、テメーは!俺を脅してんじゃねーよ!…ったく、さっさと次に行くぞ!バカ共が!!」

234: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:21:07 ID:sBLem/.c
魔法使い「次は、と……うわあっ!?が、崖!?道が途切れているよ…向こうに部屋の入口が見えるのに!」

盗賊「おい、イノシs……勇者。今度は勝手に動くんじゃねーぞ。この距離、ジャンプで届くようなもんじゃないからな」

勇者「今、イノシシって言いかけたな。……もうぶたれたくないし、やらないよ」ムスッ

僧侶「よしよし、勇者様!……でも、どうしましょう…この先に進めないのは、困りますね…」

盗賊「あれだけ罠続きだったんだ、どうせここも何か仕掛けがあるんだろうよ」

魔法使い「……あ…見えないだけで、床がちゃんとあるよ?ほら!」コンコン

僧侶「ひいいぃ…!こ、今度は、見えない床ですかあ…!!こんな高さの上を歩くだなんて~!こ、怖いですう!!」

勇者「道を踏み外したりしたら大変だ…摺り足で、ゆっくり進もう。見えないのが問題なだけで、ダメージなどはないようだしな」

235: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:21:56 ID:sBLem/.c
幻獣A「ギャッギャッギャ!!」

幻獣B「ギェー!ギェェー!!」

僧侶「きゃー!!きゃああー!!おっお化けみたいな、鳥があ~!やめて、つつかないでー!!落ちちゃうー!!」

盗賊「クソアマッ!!…っこの、鳥野郎!あっちに行きやがれ!!」バッ

勇者「せいっ!!」ザン!

魔法使い「閃熱魔法!!」バシュッ!!

幻獣C「ギャアー!ギャー!!」

勇者「飛ばれているのと、この不安定な足場……攻撃を当て辛いな!みんな、目を突かれないように気をつけて!!」

盗賊「痛っ!!痛ェッ!!目だけじゃねー、どこを突かれても痛ェっての!鬱陶しいんだよ、チキショー!!」

僧侶「ごめ、ごめんなさい、盗賊さん…!私を庇って怪我を…!」

魔法使い「焼き鳥になっちゃえー!!火炎魔法!!」ゴオオォッ

勇者「は、早く……早く、向こう岸に着かないと…穴だらけにされてしまう…!」

236: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:22:41 ID:sBLem/.c
ダンッ!!

勇者「つ、着いた…!みんな!!早くこっちへ!扉を閉めるから、早く中に!!」

盗賊「このクソ鳥が!しつけェんだよ!!」

僧侶「きゃああああ!!いやー!もう、来ないでー!!」

魔法使い「追いかけてくんなよ~っ!もう一回!火炎魔法!!」ゴオオウッ!!

幻獣D「ギャッギャッギャアア!!」

―― ゴゴン…ン!

勇者「…はあっ、はあ、はあ……な、なんとか、間に合ったか…」

魔法使い「ふへえ~……もうクタクタだあ…焦ったあ…」

僧侶「み、皆さん、今すぐ、回復しますからね……」

盗賊「待て、クソアマ。その前にテメーの手当てが先だ。結構突かれていたろ、傷を見せてみろ」

僧侶「え、えっ?わ、私は大丈夫ですよう……後ででいいです、から…先に皆さんの回復を……」

盗賊「いいから見せてみろ!バカ!口答えすんじゃねえ!」

僧侶「ああう……」

237: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:23:28 ID:sBLem/.c
勇者「むう……なんだかんだ言って、彼は僧侶には甘いよな?なんだか不公平な気がする」ムスー

魔法使い「……え、なに?勇者様…もしかして、拗ねてるの?さっきぶたれたのを気にしてるの?…へえ~?」

勇者「拗ねてなんかないっ。僧侶、手当ては私がしてあげる!よしよしもつけるから、こっちにおいで!」

僧侶「えっ?は、は、はい!?わ、わかりました!」

盗賊「…なんなんだ、このイノシシ女は」

魔法使い「あっははは!勇者様ってこんなに可愛かったんだ、知らなかった~」

盗賊「バカばっかりかよ、はあ~っ……。…ん……この壁、何か掘ってあるな……文字か?」

魔法使い「なになに?僕にも見せて!……これ、古代文字だね…本で読んだ事があるよ。えと…掠れて読みにくいな。……た、か、ら……?宝?宝物庫のことかな!?」

盗賊「マジかっ!?なら、この先がついにゴールってことか!!」

238: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 00:24:09 ID:sBLem/.c
勇者「この先に、宝が……扉は?開きそうか?」

盗賊「…ダメだな…ただの扉なのにビクともしねえ。テメーの出番だぜ。イノs 勇者」

勇者「また言いかけた!…扉を開くぞ。何があるかわからないから、みんな、気を引き締めておいてくれ…」ガガガララ


僧侶「……っ、わあ…すごい、祭壇の数……」

魔法使い「変な形の物がいっぱい飾られているね。何に使うのかさっぱりわからないや。これが古代兵器なの?」

盗賊「……なんかガッカリした。宝物庫っていうから、金銀財宝の山を想像していたのによぉ…ガラクタばっかりじゃねーか」

勇者「私達が必要とするのは神秘の水瓶だけだ。それらしきものを探してくれ」

僧侶「水瓶……ありますよ、勇者様…!ほら、あの宙に浮いているの…あれ、水瓶…ですよね?」

勇者「きっと、あれだろうな。よし、持って帰ろう…と、行きたいところだが。みんな、気をつけて。何か潜んでいる……嫌な気配がする」

244: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:14:33 ID:sBLem/.c
魔法使い「魔物…?でも、どこにも姿が見えないよ。……うわ!?」ドテッ

僧侶「だ、大丈夫?魔法使いくん!転んだりして…血とか出てない?」

魔法使い「イテテ…大丈夫だけど、なんか足が引っ掛かって……って、うわあああ!!?」

幻獣「シュルシュル……」

僧侶「きゃああああ!!?や、やだー!何っ、これぇ~!?やだやだ!魔法使いくんを離してー!」

魔法使い「わわわ……蔓?触手?うわあっ、引き摺られる!たっ助けてえー!!」ズルルル

勇者「魔法使い!私の手に掴まって!!」

盗賊「チッ、絡まってほどけやしねェ……勇者!そのままクソガキを押さえとけ!蔓を斬り落としてやる」ザクッ ザシュ

勇者「魔法使い、火の魔法で焼いてしまえ、こいつらを!!」

魔法使い「ご、ごめんなさい、勇者様…さっき転んだ時に、杖を落としちゃって…あの蔓が持って行っちゃったんだ!」

245: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:15:57 ID:sBLem/.c
僧侶「わわわ…つ、次から次に蔓が伸びてきますよう…!」

盗賊「キリがねーな…大本を叩かねェと。杖がありゃあ魔法が使えるんだな?取り返してくる!」

勇者「気をつけて!この蔓、再生スピードも早いぞ!!斬ってもすぐに復活する!」ザンッ!!

盗賊「くそ、鬱陶しいな…!!邪魔すんなっつーか、杖を返せよ、こいつ!」

盗賊「ほら、クソガキ!杖だ、さっさと焼いちまえ!」ブン

魔法使い「僕の杖!ありがとう、お兄さん!ようし…火炎魔法!!」ゴアッ!!

幻獣「シュシュウウウ…シャアアアア!!」

勇者「うん、やはり火には弱いようだな…このまま追い詰めて、一気に倒すぞ!!」

僧侶「蔓の量が増えてます~!お、怒ってるんだ!うわーん!気持ち悪いぃ、服の中に入ってくる~!やだやだ!!いやー!!」シュルルル

盗賊「この!…クソアマ、俺から離れるなボケ!!クソガキ、こっちにも火ぃよこせ!斬るだけじゃ追いつかねえ!」ザクッ ブチッ

246: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:16:40 ID:sBLem/.c
魔法使い「火炎魔法!!……うう、もう魔力が…なくなっちゃう…!」ゴオォォ

勇者「あの蔓の塊を斬れば倒せそうなのに……!あそこまで、届かない!」

盗賊「そうだ…魔法剣だ!クソガキ、勇者の剣に火の魔法を放て!俺は以前、賢者のクソオヤジに、魔法を剣に乗せてもらった事があるんだ。魔法剣なら勝てる!」

魔法使い「ま…魔法剣?上手くいくかな……勇者様ーいくよー!?…火炎魔法!!」ゴッ!!

勇者「っ…!なんと……私の剣に、炎の力が…こ、これなら!!せやぁ!!」ザスッ ジュウウウ!!

幻獣「ギャアアア!!シャアアア~!!」

勇者「効いたッ!勝てる、いける!!」ザクッ ザシュ バシュッ!!

勇者「蔓の芯め、喰らえ!炎の魔法剣を!!―― だあああっ!!」ドズ!!

幻獣「ギャバアアァァァ…!!」ボジュウウウ

魔法使い「や、やった…蔓が引いていく……良かったあ…もう、魔力が空っぽだもん。疲れたあ…」

247: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:17:46 ID:sBLem/.c
バサァァッ!!

僧侶「蔓も…全部消えていきます!よ、良かった……気持ち悪かったあ…」

盗賊「くそっ、俺ももうマジで疲れた……一歩も動けねェよ…」

勇者「…もう、番をする者はいなさそうだな……?水瓶を取ったら、ここで少し休憩しよう…このままでは、帰る途中で全滅してしまう」

僧侶「なら、聖水を使って結界を作ります、ね。そこなら…例え魔物が来ても、私達の姿は見えなくなるでしょうから…」

魔法使い「ねー、お兄さん。あの魔力回復の水、もっとないの?」

盗賊「あの一本だけしか無ぇんだよ。辺りは俺達が見張っていてやっから、少し寝ていろ。そうすりゃちょっとは回復するだろ?」

勇者「……これが、永久に水を生み出す…神秘の水瓶か…」スッ

勇者「…ヒビが入っているな。水など一滴もない、ただの壊れた水瓶だ。やっぱり、尽きているのか…魔力が…こうなると、周りにある兵器も同じなんだろうな」

248: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:18:36 ID:sBLem/.c
僧侶「結界を作り終えましたよう~。勇者様も休んでください、怪我の手当てもしましょう」

盗賊「今のうちに飯食っとくか…クソガキが魔法を使えないとなると、途端にめんどくせーな、火を焚くの」

勇者「……そうして、便利な魔法に頼ってばかりいたから…人間は過ちを犯してしまったのだろうな……森を砂漠にしてしまう程」

僧侶「この水瓶で、元に戻せるといいですね。…勇者様、次はエルフの村に行きましょう?そこならきっと、この水瓶の事も教えてくれると、思います」

僧侶「私達…前に、エルフ村に立ち寄った事が、あるんです。エルフさんも、妖精さんもいたから、昔の事…知っている人がいるんじゃないかな、って」

勇者「エルフの村…そんなものがあるのか。すごいな、君達は。私よりよっぽど冒険している気がするぞ?…片や私は変態に追いかけられてばかりだったのに…」

249: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:19:21 ID:sBLem/.c
盗賊「ほら、テメーら飯だ。パンに炙った干し肉を挟んだぞ。クソアマはこっちな、肉の代わりに木の実ジャムだ」

僧侶「あ、ありがとうございます、盗賊さん」

勇者「…なんで僧侶だけは別なんだ?」

僧侶「あ…わ、私、お肉苦手で……食べようと思えば食べられますけど、…勇者様も、ジャムが良かったですか?」

勇者「ううん、肉でいいけど…そうか、僧侶は肉が苦手…」

勇者「…無理もない話なんだが、私は君達の事をよく知らない。それがなんだか寂しく感じられて仕方ないよ。もっと君達の事が知りたい。話を聞かせてくれないか」

盗賊「……テメーは本当に、真っ直ぐ突っ走ってくるなあ…寂しいとかそんな事、ストレートに言うなよ。恥ずかしいヤツ。だからイノシシ女なんだよ、バカ」

勇者「またイノシシって言ったな!」

僧侶「うふふっ、私は嬉しいですよう、勇者様!魔法使いくんが起きてから、みんなで色々お話しましょうね!」

250: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:20:18 ID:sBLem/.c
~数時間後~

魔法使い「ううん……、…ふああぁ…」ムクッ

僧侶「あ、魔法使いくん。おはよー、目が覚めた?大丈夫?」

魔法使い「ん…おはよ、僧侶さん……あれ、お兄さんと勇者様は寝ているんだ?僧侶さんだけ起きているの?」

僧侶「うん、今は私が見張りの番だから。私はもう休んだし。魔法使いくん、ご飯食べる?盗賊さんが魔法使いくんのぶんも作ってくれたよ、温めよっか?」

魔法使い「…ううん……なんか、あんまりおなか空いてないけど…食べておこうかな」

僧侶「そう?じゃあひとつだけ温めようね。残ったら盗賊さんが食べるって言ってたし…」

魔法使い「うん。……あ…僕、ちょっとあっちの物陰に行ってくる。すぐ戻るよ」

僧侶「えっ?だ、ダメだよ、結界から出たら危ないよ……魔物が来たらどうするの?何をしにいくの?」

魔法使い「え、えっと、えっと……その…トイレだよ!トイレ!」

251: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:21:05 ID:sBLem/.c
僧侶「トイレ?えー、罰当たり~。でも仕方ないか…じゃあ、私も一緒に行くよ。近くで見張りしてあげるから」

魔法使い「ええっ!?い、いいよ~!ついてこないでよ!恥ずかしいじゃんか!!」

僧侶「だって、一人じゃ危ないでしょう?トイレなんて、より無防備になるんだし…誰かと一緒の方がいいと思うな」

魔法使い「………」

魔法使い「………ねえ、僧侶さん。僧侶さんは…聖騎士の王国で、王子様が暴れた時、呪われたハンマーの解呪をやっていたよね」

僧侶「え?う、うん。あれは、成功して本当に良かったな……初めてやったから…」

魔法使い「…そしたらさ、僕にも、あの解呪魔法かけてくれないかな?」

僧侶「……魔法使いくんのは、呪われた装備品じゃないでしょ?効果があるかどうかわからないよ…?」

魔法使い「それでもいいよ。…あと、この事は内緒にしてね。特に勇者様には絶対秘密ね?僕も、聖水使用の解呪法を一緒にやるから」

252: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:21:52 ID:sBLem/.c
僧侶「え?で、でも……」

魔法使い「お願い!絶対秘密にして!…勇者様、心配性だから……この事を知ったら、大騒ぎになっちゃう。今、そんな騒ぎを起こしている場合じゃないしさ」

僧侶「……で、でも、でも…勇者様は、魔法使いくんの事を本当に大切にしているみたいだし……だったら、内緒にするのは…」

魔法使い「落ち着いたらちゃんと話すからさ!約束するよ。ね?……服の上からでいいから、背中に魔法をかけて。おなかとかは、自分でやるからね」

僧侶「う、……うん…わかった。でも、早めに話してね?勇者様に。心配かけたくないって気持ちもわかるけど、そういった事は内緒にしちゃダメだよ?」

魔法使い「大丈夫ーわかってる!じゃあ、よろしくね?終わったらご飯食べるから!」


勇者「……くー…すぴー……」

盗賊「………」

253: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 11:22:39 ID:sBLem/.c
・・・

勇者「うう…ん、っと。ふう…少し休めたら、気が楽になったな」

魔法使い「これだけ仲間がいると、安心して休めるねー」

盗賊「…おい、クソガキ。小便しに行くぞ、ついてこい」

魔法使い「…あ、そういえば…行くの忘れてたや。うん、一緒に行くよー。でもクソガキはやめてったら!」

僧侶「…私の時はあんなに嫌がったのに~、男同士だからなのかな…?」

勇者「子供と思っていても、一丁前になあ…ふん、別に寂しくなんかないからな。女は女同士仲良くしよう、僧侶」

僧侶「はい!仲良くしますよう~、勇者様っ」

盗賊「……くだらねェ。バカばっかりか」

魔法使い「ねえねえ、これからどうするの?水瓶の力はもう無いみたいだけど…これじゃ砂漠の国は納得しないよね」

盗賊「そういや、お前は寝てたっけな。…ここから出たら、エルフの村に行く。そこで相談するんだ、糸口が見つかるかもしれねーからな」

254: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:25:27 ID:sBLem/.c
~元・魔の吹雪地帯~

僧侶「勇者様が洞窟から離れたら、宝物庫の入口も消えちゃいましたね…」

勇者「仕組みがまったくわからない。古代の魔法は本当に不思議なものばかりだな。今の私達で再現する事は不可能に近い気がするよ」

盗賊「この先にエルフの村があるはずだ…あのクソチビ2号…妖精がふらついてりゃあ、わかりやすいんだが…」キョロキョロ

僧侶「偶然を待つのも、大変…ですよねえ。……目印とか、聞いておけば良かったな」

勇者「………魔法使い?顔色が悪いぞ、大丈夫か…?」

魔法使い「……ん…大丈夫……ちょっと、疲れた…だけだよ…」

盗賊「………」

盗賊「クソガキ。こっちに来い。おぶってやる」

魔法使い「え?で、でも。邪魔になっちゃう、でしょ…いいよ、大丈夫だから…」

盗賊「うるせえ、ゴチャゴチャ抜かすな。ガキがいらねー気を使ってんじゃねえ」

255: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:26:07 ID:sBLem/.c
魔法使い「ご…ごめんなさい…お兄さん……」

勇者「……魔法使い…」

僧侶「あの、勇者様……魔法使いくんの呪い、やっぱり…かなり、進行しています……私じゃ、解呪できませんが…もう一度、休憩を取りませんか…?」

僧侶「気休めにしか、ならないかもしれないけど…解呪魔法、かけてみますから……」

勇者「………ああ。そうしよう、薬草もあるだけ使って、魔法使いの体力を回復させて…」

妖精「あら、妖精の匂いがすると思ったら。ちょっと、こんなところで何をやっているのよ。旅に出たんじゃなか ぐぇっ!」ガシッ!!

盗賊「よーし、よくふらついて来やがったな。つくづく運がいいぜ俺は。飛んで火に入るなんとやら、テメーらの村に連れていけよクソチビ2号」ギリギリメキメキ

妖精「火じゃなくて貴方の手じゃないの、入ったのは。やめてちょうだい、どれだけ作りたがるのよ、妖精の搾り汁」ギュウウウウ

256: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:26:48 ID:sBLem/.c
~エルフの村~

勇者「なんと美しい……!まるで夢の中にいるようだ…こんな場所があったなんて……」

魔法使い「…すごい……ここにいると、少し楽になってくる感じ…さっきまで、あんなに苦しかったのに……」

盗賊「賢者のクソオヤジが言っていたな、居るだけで魔力が回復する、って。ここならテメーの呪いも癒されるかもしれねー」

妖精「呪い…やっぱりその子、呪われているのね?邪気が凄まじく溢れているわ。ここにいても、呪いを断たない限り、意味はないわよ」

僧侶「あの、この呪いを解く、解呪魔法…どなたか、使える方はいらっしゃいませんか?わ…私の魔法じゃ、解けなくて…」

妖精「残念だけど、ここにはいないわ。古代の呪いでしょう?それ。こう見えて、私達はまだまだ若いのよ。古代の呪いには古代の解呪法しか、対応できないわ…」

257: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:27:28 ID:sBLem/.c
勇者「そんな……じゃあ、やっぱり呪いをかけた奴を倒すしかないのか…?」

盗賊「情けない事ほざいてんじゃねーぞ?どっかに居ないのかよ、呪いを解ける奴が。なあ?俺達困ってんだよ、助けちゃくれねーか、コラ」メキメキ

妖精「不思議ね、私には助けてほしいって頼む態度に思えないんだけど、気のせいかしら。私の体がますますくびれていくのも気のせいかしら」ギュウウウ

妖精「…解呪法の使える、長い時を生きる者。心当たりが無くもないわ。とりあえず、その子を一旦寝かせましょう。エルフのおうちに連れていくの、回復薬とかもあるから」

盗賊「だから俺の服の中に入るな……まあいい、エルフの家ってのはどこだ?案内しろよ」

妖精「貴方、本当に妖精の匂いが強くなったわね。落ち着くわ。……エルフのおうちは向こうよ、あの花畑の中」

僧侶「魔法使いくん、もうちょっとの辛抱だからね…!頑張って…!」

258: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:28:12 ID:sBLem/.c
魔法使い「うう……う…」ズズズ…

エルフ「こんなに酷い呪いは初めて見たわ…刻一刻と、この子の命を削っている。結界を張って、進行を遅らせましょう。それから回復薬を。貴方、癒し手よね。手伝ってくれる?」

僧侶「は、はい!なんでもやります、教えてください…!」

妖精「…今は、彼女達に任せましょう。村長様に許可も頂いたわ、私達はこれから滅びの里に行くわよ」

勇者「滅びの里?」

妖精「私が産まれた里よ。元々は緑豊かな大地だったけど…現在は、砂漠と化しているわ。その里にいる長老が、この世でたった一人、古代から生き続けている者。長老なら、呪いの解呪法も知っているでしょうし」

妖精「…そして、貴方が持っている魔具も。直せるのは、神族以外では、長老だけよ」

勇者「!! 気づいていたのか…魔具を持っている事を」

259: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:29:01 ID:sBLem/.c
盗賊「相変わらずスゲーな、テメーの勘っつーか嗅覚っつーか……おい、何をふんぞり返ってやがる。褒めてねーぞ」

妖精「さておき。滅びの里なら、私の移動魔法ですぐに行けるわ。準備はいい?」

僧侶「ま…待ってください!勇者様…魔法使いくんが、勇者様を呼んでます…」

勇者「私を?…すまない、少し待っていてくれ。魔法使いのところへ行ってくる」

妖精「…あ、私もちょっとエルフの所に行くわ」

僧侶「……ねえ、盗賊さん」

盗賊「あん?」

僧侶「勇者様の事、お願いします…勇者様、沢山の責任を背負っているけど……勇者様だって、女の子です。すごく辛い事に直面したら…勇者様を癒すのは、私達です…」

盗賊「………」

僧侶「わ、私も、勿論癒しますが…盗賊さんも…支えてあげて、くださいね。勇者様の事……、…ふぇっ?」ナデナデ

盗賊「………バカ女」ナデナデ

僧侶「あうあう、……???」

260: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:29:57 ID:sBLem/.c
勇者「魔法使い!大丈夫か?待っていてくれ、私が必ず君の呪いを解いてみせる。もう少しの辛抱だからな」

魔法使い「……勇者様…」

魔法使い「………」キュッ

勇者「……魔法使い?手を握って…どうした」

魔法使い「…僕ね、勇者様を信じてる。僕は呪いなんかに負けないよ、勇者様もみんなもいるし。…僕だって、勇者様が思っているより、ずっとずっと強いんだから」

魔法使い「今は……悔しいけど、動けない…でも、僕は…絶対負けないよ。勇者様を守るんだ、その為に沢山勉強した……」

魔法使い「勇者様…僕は大丈夫だから。勇者様もみんなもいる……」

魔法使い「だから、…迷わないでね。勇者様。みんなを助けてあげてね。それが出来るのは、勇者様だけだからね?……そして…勇者様を助けるのは、僕なんだ……僕達なんだ…」

勇者「…魔法使い……」

魔法使い「いってらっしゃい、勇者様。気をつけてね」ニコッ

261: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:31:00 ID:sBLem/.c
~滅びの里~

妖精「……はい、到着したわよ」

勇者「―― っ!?…すごい…一瞬にして、砂漠についてしまうなんて。海を飛び越えて?いや、本当に一瞬だった…これが移動魔法……」

妖精「人間が使うには、まだまだ研究不足でしょうけどね。結構魔力使うのよ?これ。さあ労りなさい、崇めなさい、私を」

盗賊「時間が勿体無ェんだ、さっさと事を進めるぞ」ギュウウウ

妖精「ふ、もう慣れてきたわよ、搾られるのも。…里の入口を開くわ。蜃気楼の向こう側へ行くわよ」ギュウウウウ

・・・

勇者「ここが…滅びの里。……砂漠の中に、鬱蒼とした森が…?」

盗賊「だが、実際はただの蜃気楼らしい。俺はここでほとんど寝ていたから、よくは知らねーが……家などは本物でも、木々は偽物だ」

女妖精「ッ人間!?貴様ら!!ここで何を、いや…どうやってここに入った!?」

男妖精「里に立ち入る不届き者が!殺す!!」

262: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:31:44 ID:sBLem/.c
勇者「ま、待って!勝手に侵入した事は謝ります、しかし訳があるのです、話を聞いて頂けませんか!!」

男妖精「人間の話など、ましてや侵入者の話など、聞く耳は持たぬ!!」

女妖精「殺す!人間は殺す!!侵入者は殺す!!」

盗賊「持ってないなら今から持て、ボケ!頼むから落ち着け、俺達の話を……」

妖精「…私が彼らを連れて来たのよ。この人達の言うとおりだわ、少し落ち着いたら?相変わらず血の気が多いのね、アンタ達。いやんなっちゃう」ヒョコ

男妖精「!!?」

女妖精「…妖精……お前、今更どの面を下げて、この地へ帰ってきた。貴様の居場所はもうここには無い。去れ。人間と馴れ合う貴様の顔など見たくもない。虫酸が走る」

妖精「残念ね、そうもいかないのよ。アンタ達に用はないわ、そこをどいてちょうだい。私達は、長老に話があって来たんだから」

263: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/21(火) 19:32:24 ID:sBLem/.c
男妖精「婆様に?許可しない。するわけがない。去れ。この里から去れ!」

妖精「だから言っているでしょう、アンタ達に構っている暇はないわ。そこをどきなさい!」

妖精「明日を信じない、八つ当たりしかできない、殻に閉じこもるしかできないアンタ達なんて大っ嫌いよ!」

妖精「…この人達はね、魔具を持ってきてくれたのよ?わかる?長老の力が必要なのよ。もうこれ以上同じ事を言わせないでちょうだい。…そこをどいて!」

女妖精「…魔具だと…!?」

勇者「…これです。王家の遺跡、宝物庫より持ってきました。ですが、魔力が尽きており、水は枯れております。これを直して欲しいのです」スッ

男妖精「それは……!人間に奪われた、神秘の水瓶!!?…そんな…本物……?嘘だ、そんな事が…人間が…?」

妖精「はいはい、さっさとどく!アンタ達はずっとそこで呆けてなさい!あっかんべー、だ!!」

267: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:42:57 ID:uu/4tIXY
妖精長「………」

盗賊「こいつが、長老……?随分若く別嬪じゃねーか。本当に一番の長生きなのか、信じられねえ」

妖精「…お久し振りです、長老」

妖精長「……その声は、妖精ですか。…それに、人間の男……まさか、二度会う事があるとは、ね…」

妖精長「…そして……この魂は、………そう。そうなのですか……」

妖精長「………」

勇者「…長老様。貴方の力をお借りしたく参りました。勝手に里へと立ち入った無礼は、心からお詫びします。私達は……」

妖精長「いえ。言葉で語らずともわかります。…私は遥か悠久の時を生きてきた者。この目は二度と光を映さぬ、しかし長く生きてきた故に、少しだけですが、人の心が読めます」

妖精長「貴方達が、何故この里へ訪れたか……約束…私達は約束を何よりも大切にする……貴方との約束も、今…果たしましょう……」

勇者「……約束…?」

268: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:43:44 ID:uu/4tIXY
妖精長「………」

妖精長「……水瓶の修復…解呪……どちらも、為し遂げたい…危機に瀕した時、助けると………私は、約束…した……」

盗賊「…おい。大丈夫か?お前……なんか弱々しくなっていってねえか?」

妖精長「……私達は…何よりも、約束を………大事にする…けれど、ごめんなさい……私の寿命は、もう…尽きる………」

妖精長「約束を…守れない……ごめんなさい…」

妖精長「…ひとつ……ひとつだけ、なら………どちらかひとつだけなら、できます…選びなさい…水瓶か…解呪か……どちらか、ひとつ…叶えて、あげます……それが…約束だから………」

勇者「………!!?」

盗賊「な…!どっちかって、両方はダメなのかよ!?」

妖精長「…無理……どちらか…ひとつ………選んで…早く……」

盗賊「そんな…、そんなの、解呪に決まってんだろ!?クソガキの命がかかってんだ!当たり前だろ、なあ!?」

269: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:44:26 ID:uu/4tIXY
勇者「………」

盗賊「天秤にかけるもんじゃねえ!わかりきってる!そうだろ、勇者!おい、しっかりしろ、聞こえたか!?解呪だ!解呪の方法を……」

勇者「―― 待てッ!!!」

盗賊「ッ!?…勇者……?」

勇者「………」

勇者「………そうだな。天秤にかけるものじゃない。答えはわかりきっている」

勇者「長老様。……水瓶を直してください」

盗賊「っはあ!!?何を言ってんだ、テメー!!クソガキがあんなに苦しんでんだぞ!?水瓶がどうこうじゃねえだろ!!」

盗賊「水瓶なんざ無くとも、指名手配をどうにかする方法なんざ、いくらでもある!!無視したって構わない、だったら解呪を…」

勇者「………水瓶の力を使えば、戦争を防げる。救える命が沢山ある」

勇者「水瓶の力を使えば……砂漠が、甦るんだ………だったら、…水瓶を、直してもらう」

270: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:45:15 ID:uu/4tIXY
勇者「長老様。水瓶をお渡しします。人間が犯した過ちを、心からお詫び致します…どうか、水瓶を直して頂けませんか」

盗賊「ばっ……バカ野郎…!!」

妖精長「………」

妖精長「………確かに…受け取りました……。この、形………私達の、水瓶…」

妖精長「…ああ………記憶の中でしか、見る事の無くなった森……生きているうちに、再び…会える、なんて……」

妖精長「ありがとう……貴方達、人間が犯した罪は、忘れない…けれど………謝罪の気持ちも…私は、忘れないわ……」ピカッ!!

勇者「う……?」

盗賊「水瓶が…長老が、輝いて……?」

―― ゴボゴボッ

妖精長「…甦れ、私達の森よ………その美しい姿を、また見せておくれ。踊りましょう、歌いましょう。私達は貴方を愛している。美しい木々よ、……愛しているわ………」

―― パアアアアァァッ…!!

271: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:46:01 ID:uu/4tIXY
男妖精「………!!?こ…これは……!!」

女妖精「あ…あああ……!!幻じゃない…樹が…川が……甦る…!あああ、これは、…これは…!!」

男妖精「…私達が愛した里が……甦る…!渇いた大地が、潤っていく……!!」

妖精「……綺麗ね…懐かしいわ、…赤ん坊の頃に見た姿そのまま……おはよう、貴方達。起こすのが遅くなってごめんなさい」

妖精「もう悪夢は見ない。これからは、毎日見られるのよ、安らかな夢を。ね?明日を信じて良かったでしょう。夜は必ず明けるのよ、明日は必ずやってくるのよ」

妖精「おはよう、…おかえり。愛しているわ、今日も明日も明後日も。これからもずっと、ずっと、愛してる」

妖精「……ありがとう…人間達……森を甦らせてくれて、ありがとう」

女妖精「うっ…うっ……うわあああん……!」

男妖精「………み…認めない…人間を、認めるわけには……く、…くそぉッ…!」

272: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:46:47 ID:uu/4tIXY
妖精長「―――」

勇者「……ありがとうございました、長老様…本当に、ごめんなさい。長く苦しめてしまって、ごめんなさい………どうか、安らかに…お眠りください」

盗賊「………」

勇者「…行こう、盗賊。妖精達に長老様の事を伝えねば。それから砂漠の国へ向かうぞ」

盗賊「………」ギリッ

盗賊「……テメー…良かったのかよ、これで」

勇者「………」

盗賊「迷いはなかったんだな?」

勇者「………」

勇者「………あの子は、…私達を…私を、信じてくれている」

盗賊「………」

勇者「あの子は強い。大丈夫だと言っていた、信じてくれている、迷うなとも言っていた…そう、迷うな、って。私は…私は、……迷っていられない。一人の人間に拘ってはいけない。みんなを守らなきゃいけないんだ」

勇者「魔法使いは私が救う。なに…呪った奴を倒せばいいんだ、ただそれだけの事だ…」

273: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:47:41 ID:uu/4tIXY
盗賊「………」

勇者「さあ行くぞ。時間は無いんだ、テキパキ行動しなければ」

盗賊「……おい、勇者。こっちを向け」

勇者「…うん?」

―― ゴンッ!!

勇者「!!?」

ゴン! ゴンッ!! ゴツッ!!

勇者「い…痛い!痛いっ!!やめてくれ!!何をする、いきなり頭を叩いて…!!」

盗賊「痛ェか?そりゃそうだろうな。力一杯やったからよ」

盗賊「痛いんなら、泣け。…今なら、その理由で泣けるだろ。今なら、……今のうちなら、泣けるぜ。俺のせいでな」

勇者「………!!?」

勇者「な…何を……私は、これくらいの痛みで、なんか……、……あれ…?」ポロッ

勇者「……どうして…なんで……?もっと、もっと痛くても…泣いた事なんか、なかったのに……どうして…」ポロポロ

勇者「…どうして……君に叩かれると、……涙が出るの…?」

274: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:48:47 ID:uu/4tIXY
盗賊「………」

盗賊「慰めたり励ましたり、抱き締めるのも、俺の全部は予約済だ。この先永久に続く予約だ」

盗賊「でも、予約した奴は、とんでもねェお人好しのバカだからよ。席を譲ってくれるらしいぜ?」

盗賊「今日だけ特別だ。…背中くらいなら貸してやる。背中だけな。……耳は塞ぐ、目も閉じる。何も聞かないし、何も見ねーよ」

盗賊「今のうち、だけだ。……泣けよ。俺は聞かないし見ない。俺に殴られたせいで、泣けよ」クルッ

勇者「………」

勇者「……う…うっ……ううう…っ!!」ギュッ

勇者「うわああああ……!!ごめん…魔法使い……ごめん…っ!!わ、私のせいだ…君を苦しませて、すぐに救えなくて、ごめんね……!!」

勇者「必ず……必ず、私が助けてみせるから…!君を守るから……!うわあああん!うあああああーっ…!!」

盗賊「………クソが……呪いをかけた奴、絶対許さねえぞ……」

275: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:49:35 ID:uu/4tIXY
・・・

男妖精「………そうか…婆様が……」

女妖精「だが、亡くなる前に…里を復活させられて、良かった。……私達は、忘れない。人間達を恨む。…だが…私達を救ってくれたのも、人間だ……」

勇者「…申し訳ない……」

妖精「…過ぎた事は、どうやっても取り返せないわ。けれど、償う事はできるの」

妖精「………お兄ちゃん、お姉ちゃん。私、アンタ達の事は嫌いよ。…体が大きくなる程、性が別れる程、長く生きたからこそ、その目に映ったものは、心についた傷は、想像以上なんでしょうね」

妖精「でも、それでも。大っ嫌い。後ろ向きのアンタ達なんか、大嫌いよ」

男妖精「………」

女妖精「…お前は、まだ若いから……明日を信じられるんだ」

男妖精「……俺達は……人間を憎む…認めるものか……」

妖精「…ふん。私の居場所はここじゃないわ。じゃあね、お兄ちゃん、お姉ちゃん。……そのウジウジが治ったら、また会いましょう」

276: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 00:50:21 ID:uu/4tIXY
盗賊「じゃあねっつって、さも当たり前のように俺の服の中に入るな。…つーかあいつらとお前、親族だったのか。あんなに冷たくしていいのかよ?」

妖精「あら、貴方がそんな事を気にしてくれるの?意外ね。いいのよ、…この森と、時間が、彼らを癒してくれるわ。その時が来たら…仲直りしてあげてもいいかもね」

妖精「さ、行きましょう。砂漠の国だっけ?ふふ、もう砂漠は無くなったけれどね。本当に、貴方達には感謝してもしきれないわ。ありがとう。……そして、ごめんなさいね…」

勇者「ううん。礼を言われる事も、謝られる事もない。あるべき姿を消してしまったのは、私達人間なんだから。…あるべき姿に戻しただけ、それだけだ」

勇者「そして、これから先、二度とこの姿を失わない為にも……行こう、砂漠の国へ」

盗賊「………ああ」

妖精「私は隠れているわね。大勢の人間に姿を見られたくないの。必要な時は顔を出すわ」モゾモゾ

278: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/22(水) 09:39:45 ID:WH5g3bQs
盗賊イケメンすぐる

279: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/05/22(水) 10:54:30 ID:8UUiq8X2
>>278
俺みたいだな

280: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:52:29 ID:uu/4tIXY
読んでくださりありがとうございます!

>>279
(  ゚д゚)

( ゚д゚ )

281: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:53:47 ID:uu/4tIXY
~砂漠の国・王宮~

盗賊「流石に国中大騒ぎだな。無理もねーか、いきなり水が湧いて、砂漠が森になっちゃあなァ」

勇者「混乱の中で、王との謁見は不可能かな…しかし、日を改める時間も……」

側近「…勇者殿。謁見の許可が下りました、こちらへどうぞ」

勇者「…本当ですか!良かった……ありがとうございます」

盗賊「無駄足にならなくて良かったぜ…」

・・・

女王「アタシがこの国を統べる者、女王だ。話は聞いたよ。勇者、此度の働き、見事だった。ありがとう、全ての民を代表して、礼を言わせとくれ…」

盗賊「(砂漠の国の王って、女だったのかよ。はーん…この姉ちゃんが、あれだけの暴君っぷりを、ねぇ…)」ヒソヒソ

勇者「(こら、聞こえるぞ、盗賊。黙っていなさい)」ヒソヒソ

女王「…いいんだ。アタシが間違っていたのは事実なんだからさ」

勇者「……ほら、聞こえた…申し訳ありません、女王様。大変な無礼を働きました…」

282: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:54:32 ID:uu/4tIXY
女王「いんや。アタシは責められて当然の事をした。なのに…この国を救ってくれた事、心から感謝するよ……」

女王「言い訳にしかならないけど……アタシは、夢を見ていた。長く長く続く、とても酷い悪夢をね…」

女王「悪夢の外のアタシは…冷静な判断が出来ず、傍若無人に振る舞い…愛すべき民達に不安を抱かせちまった……まるで、見えない糸に操られていたかのように。自分自身が止められなかった…」

盗賊「……おい、もしかして、それって…」

勇者「…女王も……聖王のように、魅了魔法を……?」

女王「どんな理由であれ、原因であれ、民を傷つけた事に変わりはない。貿易大国もそう、…あんた達も、そうさ」

女王「本当に、すまなかったね…あんた達の指名手配は、すでに解除しといたよ。戦争も起こさない。アタシはこれから償っていく。民達に…各国に。本当にごめんな…」

283: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:55:23 ID:uu/4tIXY
勇者「女王様、ありがとうございます!…しかし、どうかご安心を。女王様は、魔物に操られていた可能性があります。私は、女王様のように乱心された方を幾度か見てきました」

勇者「各国の王達も、その理由を聞けば、納得してくれましょう。必要とあらば、私も証言致します。……ですから、女王様は民達の事を第一にお考えください」

勇者「魔具の力により、復活した大地は、民達に混乱を生んでいます。統治は、女王様にしかできない仕事です。早く民達を安心させてやってください」

勇者「そして…どうか二度と、この地が砂漠とならぬよう……お守りください。お願い致します」

女王「……ありがとうよ、勇者。アンタの優しさに甘えさせてもらう。迷惑をかけて本当にすまなかったね…」

女王「せめてもの旅の手助けにと、謝礼を用意した。こんなものしか渡せなくてすまないが、どうか受け取っとくれ」

284: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:56:04 ID:uu/4tIXY
盗賊「うおおっ…!すっげぇ大金!!ま、マジかよ……!」

勇者「こ、こんなに!?宜しいのですか、女王様」

女王「いいんだ。すぐに用意できるのが、金しかなくてね……金で解決だなんて、いやらしいけどさ…でも、旅の役には立つだろ?詫びの気持ちも込めて、ね」

女王「本当にありがとうな、勇者。アタシ達を救ってくれたように、魔王を倒して全てのものを救えるよう、祈っているよ。ありがとうな…これから先、気をつけて行くんだよ」

勇者「ありがとうございました、女王様。では、失礼致します。……ほら、盗賊!もう行くぞ、何をやっているんだ!!」

盗賊「ひーふーみー……ああっ、何度数えても堪らねーな…!金最高、お宝最高……!!こんな大金、初めて見たぜ!!」

勇者「盗賊!!行くぞったら!!」グイグイ

285: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:56:48 ID:uu/4tIXY
~エルフの村~

妖精「はーい、到着したわよ…ううん……むにゃむにゃ…」

盗賊「随分静かだと思ったら、人の服の中で眠りこけてやがって。ヨダレとか垂らしてねーだろうな」

勇者「………」

盗賊「おい、どうしたよ。さっきは俺をあれだけ引っ張ったくせに、何を立ち止まってやがる」

勇者「…うん……ごめん、今行くよ」

盗賊「しっかりしろや。テメーは突っ走るのが取り柄のイノシシ女だろ。突っ走って正解をもぎ取るのがテメーなんだから」

勇者「……そう、だな………でも、イノシシ女はやめてくれないか?名前で呼んでくれ」

盗賊「ケッ。さっさと行けよ、行かないうちはずっとイノシシ女だ、バカ」

妖精「ぐー……すぴー……」

盗賊「そして熟睡してんじゃねーよ、クソチビ2号め」ベシッ

妖精「ぎゃふ!!……うう………ぐぅ…ぐー……むにゃむにゃ…」

286: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:57:31 ID:uu/4tIXY
僧侶「おかえりなさい、勇者様!盗賊さん!…どう、でした……?」

勇者「…指名手配は解除できた。戦争も防げたよ……だが…解呪法は……」

僧侶「……そう、ですか…」

勇者「…あとでゆっくり話す。今は…魔法使いのところへ、行かせてくれ」

僧侶「あ……ゆ、勇者様…」

盗賊「…少しくらいなら大丈夫だろ?2人きりにしてやれ」

僧侶「盗賊さん……勇者様は、やっぱり…辛い目に、会われたんですね…」

盗賊「…それでも、進まなきゃならねーのが、アイツの使命なんだろうよ。俺達はそれを横から支えるのが使命だ」

盗賊「……だから、今はほっといてやれ。何があったかは俺が話す。こっちに来い、クソアマ」

僧侶「は……はい…盗賊さん。……勇者様、………」

287: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:58:22 ID:uu/4tIXY
勇者「………」

魔法使い「……はぁ…はぁ……」ズキン ズキン

魔法使い「………?…あ…勇者様、おかえりなさい……どこも、怪我してない?大丈夫だった?」

勇者「ただいま。……ああ、大丈夫だよ」

勇者「…だけど…ごめんな、魔法使い…解呪法は……手に入れられなかった…」

魔法使い「………そっか…」

勇者「で、でも!私は必ず君を守るよ!安心してくれ、解呪法がなくても、呪いをかけた者を探して倒せばいいんだ!!絶対に倒すから!君を助けるから……だから…!」

魔法使い「もう、何を一人で焦ってんの?だからお兄さんに、イノシシって言われるんだよー」

魔法使い「言ったでしょ、勇者様。僕は呪いなんかに負けないよ。勇者様を信じてる。大丈夫だよ」

魔法使い「勇者様は正しい事をしたんだよ。僕、すごく誇らしいや。そんな勇者様が大好き、みんなを守ってくれる勇者様が、ずっとずっと好きだった」

288: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:59:07 ID:uu/4tIXY
勇者「魔法使い……」

魔法使い「それでね、これからもずっとずっと、ずうーっと、勇者様が大好きだよ」

魔法使い「みんなを守ってくれる勇者様は、僕が守ってあげる。その為にいっぱい勉強したんだから。仲間に選ばれてすごく嬉しかった」

魔法使い「僕は負けないよ、大丈夫だよ。ずっと勇者様と一緒にいるよ。だから勇者様……迷わないで。僕は勇者様についていくから、勇者様は前を向いていてね」

勇者「……ごめ…ごめんな……魔法使い……もう、何が正しいとか…正しくないとか、わからないよ……」

勇者「けれど…私は、君を守る……それだけはわかる…君の為に頑張るから、君を…全てを守るから……だから、ごめん…」

魔法使い「…勇者様、泣き虫だったんだね。知らなかったよ。ふふ、僕ね、この旅がすごく楽しい。知らない事をたくさん知れるから、楽しいよ。もっともっと知りたいから…僕、頑張るからね」

289: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 11:59:54 ID:uu/4tIXY
勇者「………」フラリ

僧侶「勇者様……」タタッ

勇者「…大丈夫。大丈夫だよ。……呪いをかけた奴を倒す。そうすれば、解決するんだ。世界中駆け回ってでも、見つけてやる」

僧侶「そ、その事なのですが、勇者様。この村の、村長様が…力を貸してくださる、そうです…。村長様の家に行きましょう?」

勇者「…村長?」

盗賊「小人族のクソチビ初号機だ。ふざけた感じの奴だが、占いの腕前はピカイチでな。俺達も、奴の占いがあってこそ、お前らと合流を果たせたってくらいなんだぜ」

盗賊「だから、しらみ潰しになんかしなくとも、占いをしてもらえりゃあ…呪った奴を見つけられるかもしれねェ。行こうぜ、クソチビの家に」

勇者「そうなのか…。……わかった、行こう。村長様の家に」

妖精「……ふあぁぁよく寝た…あ、あら?どこに行くの?あら?あらあら?」

盗賊「お前どんだけ熟睡してやがんだ、空気ぶち壊してんじゃねーよ、クソチビ2号が」

290: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 12:00:43 ID:uu/4tIXY
勇者「こ…これが村長様の家、か?随分と小さいんだな」

僧侶「小人族ですからね…2人も入ったら、いっぱいいっぱいに、なってしまうんですよ。私達は…外で待っていますから、勇者様、中へどうぞ」

妖精「私が仲介をしてあげるわ。さ、いらっしゃい」

勇者「う、うん。じゃあ…いってきます」


村長「やあやあ、いらっしゃい~。こんにちは、はじめまして~。僕がこの村の村長で~す、よろしくね~?」

妖精「村長、勇者です。話は通っていると思いますが、村長に占いを頼みたいという事で、連れてきました」

勇者「よろしくお願いします」

村長「…え?君が勇者なの?」

勇者「……?はい、そうですが…何か…?」

村長「へえ~?……や、ごめんごめ~ん、気のせいだったかな~?うん、ちゃんとキラキラ輝いているしね~。あははっごめ~ん。改めて、よろしくね~勇者~」

294: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 20:02:51 ID:uu/4tIXY
村長「えーっと。お願いの内容は、あの男の子を苦しめる呪い…それをかけた奴を見つけるんだよね~」ゴソゴソ

村長「は~い、占いの水晶玉で~す。じゃあ、早速占いま~す。……ん~むむむ…」

勇者「………」

村長「……あれえ~?よく見えないなあ…あはは、こんな事、初めてだよ~……」ピシ! ピキッ

妖精「ちょっと!?村長、水晶玉にヒビが…」

村長「………静かに!!今、集中を解くわけにはいかないんだ!……むむむむ…」バキ! ビキ!!

妖精「村長!!」

―― バキャアァン!!

村長「うわああ!?…あ~あ……僕の水晶玉がぁ~」

勇者「真っ二つに割れた…!?大丈夫でしたか、村長!お怪我はありませんか!?」

村長「あははっ、平気平気~!…でも、ごめんね~…この呪いをかけた奴は、物凄い力を持っているんだね~。正体を探ろうとしたら、弾かれちゃったよ~。見つける事はできないみたい~」

295: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 20:03:45 ID:uu/4tIXY
勇者「……そんな」

村長「でもね、一瞬…ちらっとだけ、見えたものがあったよ~」

村長「物凄~く、たくさんの本の中に……ほら、前にここへ来たオジサン…賢者だっけ?彼がいたのが見えたなあ。あはは、ヒントなのかもしれないね~?よくわからないけど~」

勇者「…賢者……?合流する前に、盗賊達と共に行動していたという人物か…?」

村長「手がかりが無い今、彼に会いにいくのもいいかもね~」

村長「…呪いは、もうとっくに最終段階に到達しているよ。今は、この村の癒しと…妖精の回復薬で、無理矢理動いている状態だ。これから一時的に元気になるだろうけど、次に倒れたら、もうそれでおしまい」

勇者「!!!」

村長「回復薬をたくさん持たせてあげる。僧侶ちゃんにも、作り方を教えておいたからね。…時間は、もうとっくに切れているよ。急ぎな?」

勇者「……は…はい…!!ありがとうございました、村長…」

296: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 20:04:30 ID:uu/4tIXY
・・・

盗賊「……そうか…もう時間が……」

僧侶「勇者様…どうしますか…?魔法使いくんは、ここへ置いていくとか…わ、私達だけで、解呪法を探しにいきますか…?」

勇者「いや……魔法使いは連れていく。無理をさせたくないのもあるが…もし解呪法が見つかった時に、すぐに施してやりたい」

勇者「…それに、これは我儘だし、冷静な判断でないとわかっているが…あの子の傍にいたいから……」

盗賊「それにしても、賢者のクソオヤジか。沢山の本ってなんだ?あいつの家は本の山だったが…家に帰ってんのか?」

僧侶「で、でも…私達、賢者さんが船に乗るのを、しっかり見送りましたよね…?確か、あの船は……隣の大陸行き、だったような…」

勇者「隣の……、…沢山の本…?……もしかして、貿易大国にあった、王立図書館か?そこに彼がいるのだろうか」

盗賊「……行ってみる価値はあるかもしれねえな。すぐに船を手配しようぜ」

297: ◆uf0K1dqu8A 2013/05/22(水) 20:05:16 ID:uu/4tIXY
妖精「砂漠の国までなら、私が移動魔法で送ってあげられるわよ?移動魔法は、一度でも行った事のある場所へしか行けないの。直接送れなくてごめんなさい」

勇者「いや、充分だ!ありがとう、助かるよ」

僧侶「で、では、私はエルフさんから薬と、その材料を、もらってきますね…!」

盗賊「済んだらここに戻ってこい。クソチビの魔法ですぐに移動だ。…勇者、俺達はクソガキを迎えに行くぞ」

勇者「ああ…」

・・・

魔法使い「…あ、勇者様!お兄さんも、おかえりなさい!」

勇者「魔法使い……具合はどうだ?」

魔法使い「それがね、聞いて聞いて!薬のおかげで、すごーく元気になったんだよー!」

勇者「(…元気になっても、次に倒れたら、もう終わり…)」

盗賊「クソガキ。これから俺達は隣の大陸に移動する。テメーも一緒に行くんだ」

魔法使い「え?うん、わかった!すぐ支度するね!」
魔法使い「魔王を倒す!」 勇者「心配だ…」【後編】
に続く